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愛しあいたい
廊下の電気をつけて振り向くと、凛久は玄関扉の前で小さくなっていた。
「どうした? 雄太ならいないよ。さっき帰って来るなってメールしたから」
ざっと部屋を片付け、リビングの明かりもつけて戻るが、凛久はまだ同じ場所で固まっている。まるで迷子になった子供みたいにひどく不安そうだった。
俺はそんな彼を苦笑して見ながら、できるだけ明るい声で言った。
「久しぶりだよなーうちに来るの。あの日以来かな?」
その言葉に反応して、凛久の肩が揺れた。俺は裸足で玄関に降りると、凛久の体をそっと包むように抱いた。
「大丈夫だよ。もう凛久を傷つけないから……絶対に。約束する」
そうして凛久の白いうなじに唇を落す。
少し触れただけなのに体を震わせ「んあっ」と艶めいた声をこぼした凛久は、たちまち顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに視線を落した。
よしよし、いい反応だと満足しながら、俺は凛久の手を引く。
しかし右手にある俺の部屋のドアを開けて中に導き入れた途端、手を振りほどかれた。
「凛久?」
「あのっ……、どうやってやるの?」
「え? どうやってって?」
キュッと自分の腕を抱えるように抱きながら、彼は言った。
「例えば……縛ったり、目隠ししたりするの? 薬使ったり道具でしたりする?」
あっけに取られて俺はまじまじと凛久を見てしまった。
なんだそれ、SM? SM的なのを要求されているのか? 困った。俺にはそんな高度なプレイの知識は無い。大口をたたいたが、こんなに早くがっかりさせてしまうのか。
「……しない。って言うかまだ俺、できない」
しょんぼりこたえる俺に、凛久は噛みつくように言った。
「じゃあどうやって!? 言ったよね、僕すごいビッチだって。そんなんじゃ満足できないって言ったじゃん。やっぱり無理なんだよっ」
言いながら感情が高まったのか、また泣いてしまうのをこらえるように凛久の語尾は震えていた。
――これは、相当毒されてる……。
俺は頭をかくとベッドにどさりと座った。
「そんなのも楽しそうだと思うけどさ、とりあえず普通にやってみない?」
「普通なんてっ、」
反論する凛久にかぶせて言う。
「俺は凛久と、普通に、愛しあいたい」
「……っ」
凛久が言葉を失ったのがわかった。
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