当たり前の日々に

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当たり前の日々に

 味噌汁のいい匂いがする。  まるで子供のころに戻ったみたいな幸せな気持ちで目が覚めた。が――。  体中が筋肉痛で痛い……。やっぱり運動不足だな、こんなんしばらくなかったもんな……。情けない気持ちでそこらへんに落ちていたズボンをはく。  リビングに出ていくと、予想通り、凛久が台所に立っていた。 「りーく。朝からそんなに頑張らなくていいのに。体辛くないの?」  だらしなくニヤけてさがる頬を無理やり引きあげ、できるだけキリっとした顔をつくる。 「あっ、おはようございます。 勝手に使っちゃいました。食材とかも適当に……」 「あぁ何かあった? 美紀ちゃんが置いてったのかな。いいよ何使っても」  そう言いながら、二人居ると窮屈さを感じる台所に入りこむ。  敬語になってしまっているのは、緊張しているからだろうか? 凛久はこちらをちらちらと気にしながら、器用に卵焼きを焼いていた。  あー、いいよなこういうの。憧れだよな。  俺は凛久の横に立ちその手元を覗きこみながら、やっぱりニヤニヤとくずれる顔でそんなことを考えていた。愛しあった翌朝に恋人が俺のために朝食を作ってくれるとか、最高じゃない? 最高だよね?  いたずら心が湧いてきて、そっと凛久の後ろに回りこむと、ぎゅっとその体を抱きこむ。  『ちょっと! イチスケさんこげちゃうよ、ダメだよぉ』とか可愛くいさめられることを期待していたのだが、凛久はすっとコンロの火を消すと、俺に向かいあって言った。 「おちんぽ、舐めたげる?」 「え?」 「だっておっきくなってる。僕、そういうのすごく得意だから」  ぺろっと舌で唇を湿らせながらひざまずこうとする凛久を、慌てて止める。 「ちょーっと、まって! いい! ごめん、俺が悪かった!」  あんなにしたのに朝勃ちしていたのに気づかれた。当の凛久は、「別にいいけど。本当にじょうずなんだけど」と不満そうにつぶやいている。  そっか、上手なのか……更にむくりと起きあがった素直な股間に、冷静になれと必死に言い聞かせて深呼吸する。  まったく俺の恋人はエロすぎる。エロいのはいい。だがためらいなくおちんぽだの口にするのはやめて欲しい。  それに――何と言うか、奉仕することにためらいが無い様子なのは気になった。  自分の体を大切にするという感覚が、薄れてしまっているのかもしれない。 ――俺のせいだよな。  口を引き結んで頭をかく俺を、凛久は不安そうな顔で見ていた。心細くてたまらないと言っているみたいなその姿に、きゅっと胸が切なくなる。  俺は凛久の腰に手を回して囲いこんだ。 「そんな顔しなくていいのに。不安になるなら、いつでも俺にねだればいいんだよ?」 「ねだるって? なにを……」 「『好き』って言ってって、ねだったら俺は、いつでも凛久にあげる」  片手を滑らせて凛久の頬を包みこむ。 「ほしい?」  そう聞けば、凛久は真っ赤になってうなずいた。  俺は凛久の耳の中に直接置いてくるように、すぐそばで、「好きだよ」と囁いた。 「…………」  少し離れて凛久を見て微笑むと、凛久はぱくぱくと声にならない言葉を紡いでいた。
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