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午前九時五分。
うちのクラスの担任はいつも八時五十七分には痰が絡んだ声でホームルームを始めることが多い。
それが九時を過ぎても教室にさえいないなんて、前例がないことだ。
教室内もざわざわと騒がしくなる。
「ねえ、見てあれ」
一人の女子のクラスメイトが窓の外を指差す。
近くにいた女子たちが騒ぎ出し、やがて全員が窓の外を見る。
視線の先に、屋上がある。
その上空に、黒雲のようなものが広がる。
それはみるみる大きくなり、校舎を包み込んでいく。やがて窓から差し込む光を遮り、辺りが薄闇に包まれる。
クラスは喧騒に包まれる。
戸惑いながらもスマホで写真を撮るクラスメイトたち。
「と、とにかく先生呼ぼう!」
真面目な生活委員の子がそう切り出し、教室のドアに向かう。
「きゃあ!」
金切り声が上がる。
声を上げたのは教卓の近くにいた女子だ。
教卓の横で赤い目がぎらりと、声を上げた女子を睨んでいる。
「あがアアァァァァ!」
直後、赤目の男子は声を上げた女子に急接近し、突然抱き締める。
「いやあぁぁぁ!」
抵抗をする女子だが、男子は構わず抱き締め続ける。
すると女子の両目も赤目になり、男子の頭に腕を回す。
「ああぁ、あはっ、アハッ、シンジくん、すきっ、スきよおおお!」
そのまま抱き合う二人。
「やだ、離してよぉぉ!」
生活委員の子は腕を男子に掴まれ、宙ぶらりんにされている。
「ケンヤくううウんっ! キゃあああァァァァ!」
そこへ数人の赤目の女子が男子に抱きつき、生活委員の子もろとも倒れ込む。
さっきまでクラスメイトだった彼ら、それがいつの間にか赤目をした得体のしれない存在にすり替わっている。まるで赤目によるパーティー会場だ。
教室の隅で縮こまった僕を探すように赤目の男子がこちらを覗う。
「……ひっ」
あまりの恐怖に、思わず声を漏らしてしまう。
「アガアアアぁぁ!」
赤目の男子はこちらに向かって飛びかかってきた。
常人離れした力で掴まれ、思い切り首を絞められる。
「……っく! あぐぅ……」
僕の身体は簡単に持ち上げられ、床を求めて必死に脚をジタバタさせるも空を切るばかり。振り払おうにも叶わず、徐々に意識が薄れていく。
ここで僕は死ぬのだ……何が起きたかも知ることなく。
初恋の先輩に告白も出来ずに……。
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