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こんなに溺れるなんて思っていなかった。 淫らな想像をしたことは認めざるを得ないが、きっとそれは私の独りよがりだと思っていたのに。 どれほど繋がっても足りない。瑞の熱っぽい視線を浴びたら止めることが出来ない。 限界直前で私は瑞を解放し、汗で湿った自分の浴衣の前を開けた。 荒い息をしながら私を見ている瑞の脚をつかみ、自分の方に引き寄せる。 「瑞……」 名前を呼ぶと、妖艶な微笑みを浮かべる瑞。 十分に柔らかくほぐれて赤みを帯びた入り口に、私はいきり立った自分自身を当てがった。 「んっ…ぅあっ…」 「みずき…っ…」 ぬぷりと熱い肉壁を押し分けて自分の性器が瑞の中に入っていく。 全てが飲み込まれて、改めて瑞を見下ろした。 庭から差し込む月の光が、私の背後から降り注いでいた。 私の身体越しの月明かりに照らされる瑞を見て、私はあることを思い出した。 刑務官の三倉が言った、オルフェウスとエウリディーチェ。 冥府と地上の瀬戸際で、振り返ってしまったオルフェウスから見た妻の姿はまさに、このような状況だったのではなかろうか。 オルフェウスの背後からは地上の光。 振り返ってしまったばかりに冥府へと連れ戻されるエウリディーチェは、その光を見ながら墜ちてゆく。 瑞は私の顔に手を伸ばした。 「君行さん……僕のこと…愛していますか…」 私の顔に触れた瑞の指先は、火照っているはずなのにひやりと冷たかった。 この妖しくも淫らな青年は、自覚のない色香で義父を惑わし、義兄と禁断の関係を持った。そして、自らもその媚薬に制御を失い、性に溺れていった。 私は冤罪を疑い、不必要な罪の意識に苛まれていた彼を守りたいと思い一歩を踏み出した。 面会室での秘め事で私は完全に陥落し、瑞の虜となった。 自分が持っている気持ちが、純粋な愛情だけではないことなど百も承知だった。 私は瑞の義父や瑞を慰み者にした刑務官となんら変わらないのかもしれない。何度もそう思った。 それでも踏みとどまらなかったのは、私は決して瑞の手を離さないと決めたからだった。 「瑞……」 「聞かせて……君行さん……」 瑞の冷たい指先が顔から滑り降り、首に触れた。 途端、首を絞められた悪夢が蘇る。 もし瑞が、その色香を利用して義父や義兄を陥れたとしても。 事故ではなく明確な殺意を持って家族全員を殺したとしても。 私を騙しその冷たい指でいつか殺される未来があるとしても。 決して私の決意は変わらない。 君の罪は、私の罪。 逝くなら、君と行こう。 「愛しているよ」 私は瑞を深く、穿った。           完
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