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14
(先生…)
面接はさっき終わったはずだ。そのあと刑務官と話をして…
(先生、こっちを見てください)
どうして私は面会室に戻って来たんだ?忘れ物でもしただろうか?
私の目に映るのは拘置所内の見慣れた面会室の机と椅子。そのむこうに、桐島がいた。
桐島は私を呼ぶが、声がくぐもってぼんやりして聞き取りづらい。
私は彼に答えようとしたが、うまく声が出なかった。
桐島は机の向こう側で、真剣に私を見つめていた。
(気持ち悪いですか、僕が)
いつかの面接で同じようなことを聞かれた記憶がある。あの時私は答える間もなく桐島に…
(でも…先生も勃っていましたよね…?)
そうだ、あの時私は意に反して身体が反応した。しかし、意に反したのではなく、それが本心だったのではないかと今では思う。
そしてやはり…桐島に気づかれていた。
(僕は殺人犯です。もう…何も失う物はないんです)
(桐島くん!)
私は否定しようと声を上げたが、それもくぐもって自分の頭蓋骨の中で反響するだけだった。ぐわん、と立ちくらみがして気持ちが悪い。
桐島は両手を交差し、白いセーターの裾をたくし上げた。
(刑務官の話をお聞きになりましたか)
(あ…あれは…本当なのか)
(僕は普通の身体ではないんです。…淫乱なんです)
桐島は話しながら脱いだセーターを床に落とし、ズボンに手をかけた。
(何をしてる…服を着なさい)
言葉とは裏腹に私は目を逸らすことが出来ずに立ち尽くしていた。
下着だけになった桐島の腹部には、事件の傷がまだ生々しく残っている。
そして目を凝らすとそれだけではない、いくつもの赤い痕が点々と連なっているではないか。私は刑務官の話を思いだし、ぞっとした。
桐島は腹部の刃物傷を下から上に撫でた。
(実はまだ痛むんです……夜になると…疼いて…)
桐島の手が下着のウエストにかかる。
するりと引き下ろすと、桐島の牡が姿を現した。
驚いたのは、あまり濃くない繁みの近くにも、赤く吸引されたであろう痕があったことだった。
(でも…抱いてもらうと…痛みが引くんです)
(桐島くん…)
(瑞と…呼んでくださらないんですか)
桐島は一糸纏わぬ姿でゆらりと歩き出した。
刑務官がいるはずだ。呼んだ方がいいのか、呼べば問題になるのかと考えている間に、桐島は一歩ずつゆっくりと、私に歩み寄ってきた。
(傷が…痛いんです…先生……)
私は身体が硬直していた。なのに、下半身には血液が集中してもはや痛いほどに張り切っている。隠すことも出来ない。
(先生)
いつの間にか私の目の前に立つ桐島に、手を取られた。それを自らの両足の間に当てがわせて、桐島は私の顔を見つめた。
(すごく…痛いんです……先生…お願いですから……)
考えることを放棄した頭は、私の身体を桐島に言われるがままに動かした。甘く勃ちあがった桐島のそこを握ると、びくん、と彼のすべてが痙攣した。私の手の中でそこは次第に大きく膨らみ、熱を帯びていった。
(…っぁあ…っ…)
桐島はとてつもなく甘い声で喘いだ。熱い息がかかり、とろけそうな瞳が私を捉えて離さない。
自慰なんてしばらくしていないが、当然手は動きを覚えていて、私は握った桐島のものを無心に扱いていた。
(ん…っ…あっん……せん…せ…)
男とは思えない色香で桐島は喘ぎ、私の肩にしがみついた。荒々しい息で胸を上下させ、桐島は私に愛撫されながら唇を重ねてきた。
熱い舌が私の口の中で生き物のように動き、私はすっかり勃ちあがりきった自分のそこを、桐島の裸身に擦りつけていた。
(せんせいの…指……っ…気持ちい……っあっ…)
(みずき…っ…)
桐島の手は私のスーツのベルトを器用に外し、はちきれそうになっていた性器に、下着の上から触れてきた。桐島の手つきはただでさえ限界の近い私を巧みに導き、いつのまにか下着は降ろされていた。
互いに相手のものを扱き、貪るように唇を合わせた。
(あぁ……っん…せんせ……っ…イきそぅ…っ…)
(み…ずきっ……っうっ…)
(んぅ…っ…はぁ…ん…ああっ…)
甘い桐島の声に背中を押され、私は射精した。
ほとんど同時に桐島も私の手のひらに精を放ち、温かく粘り気のある愛液が指の隙間を濡らした。
「…っはっ……」
自分の声で私は目を覚ました。
自宅のベッドの上にいた。
夢だった。なんて生々しい。
私は思わず両手を確認した。汗はかいているが、それだけだった。
「…最低だ……こんな……」
額に髪が貼り付き、首筋はべっとりと湿っている。
そっと布団をめくってみるが、変化は無かった。少しだけ罪悪感が軽くなった。もう一度眠る気にもなれないが、どさりとベッドに仰向けになった。
耳に残る、桐島の喘ぎ声と身体の熱。まるで現実のようだった。
まだ夜は明けきらず、外は薄暗い。
今日は、桐島の面接の日。
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