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「カスタムジャンキー」三蛙野店
人生を変更する店なんざ、三蛙野にはごまんとある。
基本的には自分の好きなように人生を作ることができるが、変えられないものもある。
例えば、魂の寿命。
人の魂は生まれてから死ぬまでの時間が全く同じに設定されている。
きっかり千年だ。人は一秒の狂いもなくきっかり千年生きなくちゃならない。
まぁ、伸ばすことはできなくても、短く区切ることはできる。
十五歳の春に歌手デビューして半年もせずに話題沸騰、人気絶頂。
秋から冬にかけてライブツアーをして、その最終公演にステージの上でアンコールから別れの歌を歌って観客の前で事切れる。
そんな鮮烈な流れ星みたいな人生を作ることもできる。
けど、こういう人生は価値が低い。
だれでも初心者の内に一度は作る人生だからだ。
新作も中古もありふれている。
歌手でなくともスポーツ選手、映画監督、俳優、アイドル、芸人、作家、デザイナー、画家、どれもこれも十歳中頃から後半に注目を浴びて偉業を成して、そこから一気に「死」という一番重くて簡単に決まる結末で飾り付ける。理由は大体心臓麻痺か原因不明の難病だ。
ちなみに、恋愛モノでも同じだ。人生の春は十代に有り、とばかりに苦難と達成を詰め込んで、結末は婚約してから死ぬか、そうじゃなかったら自分か相手のどちらかが死んで後追い自殺だな。前者の死因は大体心臓麻痺か原因不明の難病だ。
もちろん、栄光のあとの没落も味わいたいのならそこから数十年どのように落ちぶれていくかを組み上げなくてはならない。むしろ、鮮烈さと美しさに飽きてきた客からはこっちの人生のほうが好まれる。
それよりも安定して人気があるのは「長年の努力が実を結んで願いを叶える」系の人生だ。
内容としてはさっきのものと大差ない。
言ってしまえばただ引き延ばしをしただけだ。
十代はもちろん二十代の後半になっても脚光を浴びず、注目もされない。
作るヤツの好みにもよるが、寿命の間際までそのままという人生もみかけたことがある。
夢を諦めかけたそのとき、その人生を転換させる出来事が起こる。
何かの賞を受賞する。
何かの大会で優勝する。
自分を認めてくれる誰かに出会う。
幸せになる前フリとして、とんでもない大失敗をする、とかだな。
そんでそのあとは同じだ。人生の春は諦めかけてから本番、とばかりにそこからは苦難と達成を詰め込むんだ。結末は突然死か、寿命までその人気が続くか、後継者とか弟子みたいのができてそいつに技とか思いを託す系が多いな。でも大体七十八十ぐらいでそこまでたどり着いちまう。
大昔に有名な作り手が「人生は百年前後でいい、千年もいらん!」って公言しちまったもんだから、そこから百年前後の人生が流行っちまって今じゃどの店もそのぐらいの長さの人生しか作らなくなった。
千年の人生を作っても使う客がいないから意味ないんだよ。
そのせいで人は十回以上人生を繰り返す羽目になった。
まぁ、地獄や天国や他の死後の世界では「現世に人がたまってくれてこっちは定員オーバーしないから調度いい」なんて言ってるけどよ。
いいよなぁ、官職で閑職なやつらはよぉ。
こちとら毎日客が来るから休んでる暇もねぇよ。
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