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まだ遠すぎて、夕陽の眩しさもあり表情は見えません。ただ海の方を向いてじっと立つ小さなシルエットがひとつ、ぽつんとあるだけだったので、その時はまだ「あんなところでなにをしているんだろう」と思う程度で、そのまま海を眺めながら歩き続けました。
数分も歩くと、道が二手に分かれるところまでたどり着きました。そのまま海に沿って進む道と、細くて殆ど草に覆われている、岬に向かう道。どっちに進むかすぐには決めかねて、その場で立ち止まり、改めて眺めまわしてみることにしました。
海沿いの道は、いままでと同じ、波の音と温い空気に満ちた世界が続いているようです。
岬の方に目をやると、さっきの女の子の後ろ姿がありました。短く切った黒髪に、ノースリーブで丈が長いワンピース。オレンジ色の空を背景に真っ白な布地が風になびいてはためく様は、ちょっとした写真集の表紙に使えそうな……黄昏時の海というイメージにぴったりくる光景でした。
暫く眺めていたと思います。でもその間も、女の子は微動だにせず、まるで最初からそこに在るよう作られた像のようでした。
――一体どんな眼で、海を見つめているんだろう。
私はその背中に向かってそうっと歩きはじめました。
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