<1> 同居人マキちゃん

13/29
前へ
/252ページ
次へ
「小さな会社ですけど」 私はバッグから名刺入れを出し一枚渡した。 「あら、知ってるわ。御社、北欧の輸入品扱ってらっしゃるのよね?」 「ええ、兄が社長なんですけど、ほとんどあっちに住んでるので」 「イケメンなのよぉ、妻子持ちだけど」 マキちゃんの言葉にタカシさんは一瞬固まったけれど、 「あら、妻子持ちなの、そりゃ残念ねぇ~」 と笑った。 それからマキちゃんはタカシさんに 『ちょっと奥に仕舞ったのも見てみる?』と連れて行かれ、 上品な光沢のある白とピンクのシャツブラウス2枚を手にして出てきた。 ディスカウント品のハンガーを物色し、綺麗なレンガ色のチノパンにカーキのワイドパンツも購入。 「まだ暑いけど、夏物はろくに残ってないのよねぇ。秋冬物が要るならまたゆっくり買いに来てちょうだい? レディースもあるから、栞ちゃんも是非」 銀の文字で店名であろうCROCUSというロゴの描かれた濃紺のショッパーズを渡し、マキちゃんと私を扉の外まで見送ってくれて『ありがとうございました~』と手を振るタカシさん。 私達と入れ違いに新しいお客さんが来て『あ~ら~、いらっしゃぁい』と扉を押さえて出迎えていた。 若い女性の顧客もついているらしい。  
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

477人が本棚に入れています
本棚に追加