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智紀の両親は私達の両親が起こした会社の創業メンバーだった。
両親が事故死した時の混乱を一緒に乗り越え、智紀の父親は会社の代表取締役を期限付きという条件で引き受け、
定年退職とともに創業者の息子である兄にその地位を譲り渡した。
副社長の座を智紀ではなく私にと決めたのも、智紀の両親だ。それが後に仇になったのだけれど。
智紀だって、経理部長に着任して、ベテランの社員からも信頼され頼りにされていたのに・・・・。
――『・・・・元カレの可能性は、無いの?』
結婚して2年目、私達には子供が居なかった。タイミングの問題と思っていたけれど、少々焦りはあった、そんな頃だ。
夕食の後、また外で電話してる、と思った私は、
『お隣に聞こえるから中で喋りなよ』と言おうと玄関に向かった。
――『間違いなく、俺の子?』
ドアの取っ手を掴んだ私の目の前が、真っ白になった。
『一度きりの、過ちだったんだ』
智紀は涙ぐんで項垂れた。入社2年目を迎えたばかりの雪奈ちゃんが、彼氏に振られて女としての自信を無くしたと泣いていた、と。
他の女性社員と一緒に呑んで慰めていたのに、気づくとふたりきりで。
――『慰めて・・・もらえませんか。・・・・前田さんみたいな人、憧れなんです』
誰にも言いませんから――と。
お酒の所為にしますから――と。
『俺が、馬鹿だったんだ。・・・・・・ちゃんと付けてたつもりだったのに』
『――、ひっぱたいて良い?』
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