<1> 同居人マキちゃん

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カーテンを閉め忘れていたらしい。 朝日の眩しさで目が覚めた。顔を背けて薄めを開けると、 見えたのは壁。 「・・・・・・、そっか」 もう4ヶ月この部屋で目覚めているというのに、まだたまに記憶が抜ける。 前の部屋はベッドの両側にスペースがあった。どちらが目覚めても相手を起こさずそっと起き出せるように。 ふたりで選んだ家具は全部処分した。売れる物は売って、彼の取り分は慰謝料として受け取った。 そう、慰謝料。 残りはアイツの退職金でチャラってことになっている。 ――『懲戒免職でも良かったんじゃないか? 社内で不貞を働いたんだから』 ――『じゃあそういう内規にしておいてよ、社長』 アイツよりによって、私が一番可愛がっていた女子社員と浮気をした。 ボロボロと涙をこぼす若い女の子を悪し様に罵るわけにもいかず、悪阻が重いという彼女を取りあえず病休扱いにしたままでいる。 ふたりで暮らしていたマンションはすぐに出て、転がり込んだのがこの兄の家だ。両親が亡くなる直前、私が大学で家を出ていた頃に税金対策で建てたこの家はなかなかに広い。 生まれ育った家は他にあるけれど、此方の方がオフィスに近く便利なため使わせてもらっているのだ。 両親が突然の事故で亡くなって兄が相続したのだけれど、社長と言っても兄は一年の大半をヨーロッパで過ごしている。そして日本に戻った時に兄が寝泊まりしているだけで放ったらかしだったこの家にこの4ヶ月、ぽつぽつと私が生活用品を買い足して今に至る。 「・・・・お腹空いた。なにか食べるものあったかな」
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