477人が本棚に入れています
本棚に追加
『私は、この子にだけは幸せになって欲しかったんですよ! 慰謝料だけ貰ったって・・・・、この会社にも居られないわ、堕胎の手術受けなきゃいけないわなんて、酷すぎますっ』
確かにそうだと思った。
田舎から夢を抱いてやって来た若い女の子の、体と心に傷を付けておいて。お金だけで償うわけにはいかないと。
智紀の落ち込み様からして、彼が雪奈ちゃんに恋愛感情が無いことは信じられたけれど、だからと言って許せるわけでもない。
なにより、命の問題だ。私にはまだ授かっていない、夫の子供が雪奈ちゃんのお腹に宿っている。一日一日、人の形に近づいて・・・・・・。
それから、智紀はしばらく交渉していたようだけれど。
悪阻の始まった雪奈ちゃんは、会社でも涙ぐむばかりで、周りの目も誤魔化せなくなって。
『智紀、私達、別れるしかないわ』
『栞ぃ・・・・』
涙を流したのは智紀のほうだった。
私は・・・・・・泣けなかった、彼の前では。
それから兄が帰国して、智紀の両親とも話し合ってくれた。
私より兄の方が智紀には腹を立てていたけれど、前田一家の会社への貢献を考慮して裁判沙汰にはしなかった。
結局、智紀は会社を辞めることになり。彼の両親も私に謝罪してくれたけれど、息子が退職することはとても悲しんでいた。
『もし、栞さんとの間に子供が出来ていたら・・・・。あの子もこんな馬鹿なことしなかったとは思うのよね』
お義母さんだった人の言葉は、私も考えていた事だけにグサリときた。その後だ、私が兄の前で号泣したのは。
『栞が副社長じゃなかったら。・・・・子供だって、出来てたかもしれないのにな』
最初のコメントを投稿しよう!