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――『ええ~、アタシ生物学上オトコよぉ? 駄目でしょ? 花の独身に戻った女の子がオトコ家に入れちゃ』
――『アハハ、既婚者なら駄目だけど、独身なら問題ないじゃん! ラッキー、マキちゃんたいなイケメン捕まえちゃった。独身万歳!』
――『イケメンって言わないでよ! 心は乙女なのよっ』
そうか。酔っ払った私をマキちゃんが送ってくれたんだった。そのまま泊まっていけと引き留めたのは、この私。
「ねえマキちゃん、確かマンションが火事に遭ったって言ってたのよね?」
大ぶりなグラスにピッチャーから水を足しつつ尋ねると
「そうよ。下の住人の、寝タバコよ!? あり得ないったら! あ~~また腹が立ってきた!!」
スプーンを握りしめて悔しがるマキちゃん。私は『ホントにねぇ』と同情を示す。
思い出した。確か全焼は免れたものの、上の階のマキちゃんの部屋と数室が被害に遭ったんだ。家財道具も使えなくなったけど、何よりもお友達が描いてくれた絵が煤だらけで駄目になっちゃったのが一番悲しいって言ってた。
焼け出されたマキちゃんは住むところも自力で探さなきゃいけなくって、
――『今は何処に住んでるの?』
――『此処よ? この店の、そのソファで寝てるのよぉ』
と、長い指で奥のソファ席を指した。
何故ハルちゃんのお家じゃないのか尋ねると、ハルちゃんちの“先住民”である3匹のお眼鏡に適わず、追い出されたという。
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