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「マキちゃん、荷物は?」
ベッドのカバーを取り、クローゼットからシーツを取り出して付け終えると、私は部屋を見回した。
兄貴の独身時代使っていた机や本棚もあるし、古い衣類がクローゼットに少し残ってるけれど空きスペースは十分ある。
「ええ、ハルの家とお店に少し。家財道具は焦げたり煤だらけになったから、処分してもらったわ」
「大変だったわねぇ」
「たばこの不始末が原因ってことで補償金でるけど当分住めないし、もう引っ越そうと思ってるのよね」
「何年住んでたの?」
「2年と少しかしら。」
「ふうん。その前は?」
「その前は・・・遠くよ、A区よ。撤去されたおんぼろマンションに住んでたのよ」
「ふうん」
一瞬、目が泳いだマキちゃん。喋りたくない事情でもあるのだろうと、マキちゃんの明るい茶髪を眺める。男の人にしては少し長めだけれど、女装していなければ普通に素敵な男の人だ。
「ああー、せっかく隣に独身イケメンが引っ越してきたところだったのにぃ~~!」
黙っていれば。
それから近所のコンビニで働く外国人の男の子が綺麗な瞳で可愛かったとか、隣のイケメンは声も良かったとか。
あー、この話昨日の晩も聞いた気がする、と酔った自分の記憶が戻ってきたところで少し気になった。
「マキちゃん、悪いけどこの家は兄貴のだから。いつまでもは住めないのよ」
住宅ローンごと兄が相続した家だ。「家は住んでないと傷むから」と兄貴は許してくれているが、私に住み続ける権利はない。
「分かってるわ。今の仕事が落ち着いたら部屋探しするつもりだったのよ」
クローゼットの隅に古いギターを見つけて顔を突っ込んでいるマキちゃんの言葉に『ん?』と引っかかった。
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