② カラスに恩返し

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② カラスに恩返し

 タクシーから降ろした荷物を父が店の中へと入れているが、もうハラハラした顔をしている。  舞も妊婦ながら軽い荷物だけでもと手に取って、父を手伝う。 「こら、舞! 重たい物を持たない!」  心配性になってしまった優大の叫び声に、舞はむくれた顔を見せてしまう。  美羽が笑いたそうにしていたが、すぐに優大の、いや店長の目線が正面に戻って来たので、姿勢を正し真顔になった。 「では。スミレ・ガーデンカフェ夏期アルバイト求人についての面接を開始いたします。私は店長の上川優大です。ではお名前から、あとこちらのアルバイトを希望した動機などを教えてください」  あの優大が威厳たっぷりに募集してきた若者に向かう姿は、何度見ても舞は笑い出したくなるから困る。必死に舞も真顔に整える。 「松坂美羽です。こちらのお庭のお手入れと、繁忙期のホールのお手伝いをしたいと思って応募しました。動機は……」  美羽がちらりと、優大の後ろでじっと耐えて見守っている父と、加藤のお爺ちゃんのところに戻って座って休んでいる姉を交互に見た。 「父の負担を減らすためです。妊娠している姉の負担も減らしたかったからです」
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