② カラスに恩返し

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「松坂のお父さんと決めた範囲の勉学も怠らない。こちらで用意した家庭教師との勉強時間も含めてのアルバイトだ。昨年の夏休みがそうだったように、イラストを赴くままに描ける時間は思い通りにはならなくなる。それでもか」 「それでもです。イラストだけが目当てで来たわけではありません。この庭は私の大事な場所です。今年は姉が思うように動けない分、生意気ですが姉の意思を妹の私が反映できるような手伝いをしたいと思って応募しました。そうでなければ、昨年のように遊びに来たただの娘と妹いう暢気な立場で、この夏もここに来ていたと思います。わざわざ応募したのは、そのためです」  また沈黙が続き、まるで喧嘩上等のような二人の視線がかち合っている。  舞は思う。自分と優大も気が強いばっかりに衝突はするほうだが、これは妹も相当、気が強い女性になりそうだなと。あのときの弱々しい美少女なんかではない。美羽は強くしなやかに成長している。 「はい。採用です。いいですよね、オーナー」  テーブルの上に置いていた履歴書を手に取り、後ろでハラハラした様子で控えていた父へと、肩越しに渡した。
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