③ カムイはいつも、そばにいる

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③ カムイはいつも、そばにいる

 美羽が来て一週間が経った。  今日も奥の席で加藤のお爺ちゃんが、アイヌ姿でお客様と楽しそうに話をしていて、舞は美羽が選んできた切り花を店内に活ける。  ひと仕事終えて、住居区にあるダイニングでひと休みをしようと、父が忙しくしているホール厨房をすりぬけ奥へと向かう。その側にあるベーカリー厨房と勝手口。そこにコックコート姿の夫、優大が佇んでいた。開け放している勝手口のドアの向こうには、今年も牧草地のようにたくさんの花がひしめきあっているスミレ・ガーデン。彼はそこをじっと見つめていた。 「どうしたの」  お腹が大きな妻がやってきたと知り、それだけで彼が微笑んで、舞をそっと抱き寄せてくれる。舞もその腕に囲まれながら、彼がまた戻した目線の先を見つめた。  そこには昼休憩の合間に、花のスケッチをしている妹の姿があった。  店長との面接で言い放ったとおりに、美羽は午前中は勉強をして、開店後はホールサーブの手伝い。昼休憩が終わると、夕方まで庭仕事を手伝い、アルバイトに精を出している。  今日もお気に入りのリバティプリントのブラウスを着込んで、姉とそっくりの姿でそこにいる。
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