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舞は驚き、もう一度来た道を戻り、妹がいた小路へ。花々が重なる路の向こうでは、先ほど見た光景と変わらず、美羽はイラストを描き続け、足下にはいつものカラスが付き添っている。舞はもう一度、納屋へ戻る。
まだいる。ちょこんと蛇口の上に、カラスが一羽とまっているままだった。
そのカラスの正面へ戻った舞は、黙って見下ろす。
確かに。美羽の側にいるカラスと姿が違う気がする? 首や面差しがスマートで……。懐かしい虹色をもつ黒い羽。
カラスもじっと舞と見つめたままなのだ。
言いたい。呼びたい。でも、そんなことあるのだろうか。
納屋に入り、舞は花鋏を手に取る。今年も壁伝いには、白いマダムハーディと紫のクレマチスが咲き誇る。そこから、マダムハーディを一枝切り取った。
まったく飛び立つ気配もないカラスの目の前へ戻り、舞はそれをそっと差し出す。
カラスがじっとマダムハーディを見つめていたが、やがてそれをくちばしに咥えてくれた。
「おかえりなさいませ。カラク様」
そう思いたい!
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