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翌春。また雪解けの庭にムスカリやクロッカスが顔を出すと、カフェの周りをぐるっとスミレが囲んだ。
さあ、どうなる。秋に敷地いっぱい、びっしりと植えた草花はどう庭を描いてくれるのか。
五月。少しずつ青紫の花が咲き始める。赤いオリエンタルポピーのアクセントも見えるようになってきた。
二年目の初夏。その人は、森の入り口から現れ、舞に声をかけてきた。
『オレンジティーなるものはありますか?』
ちょうど、舞が待ち焦がれていた秋に植えた花が咲き始め、やっと緑と土色だけだった庭に彩りが備わった時に、彼がオレンジティーを求めてきたのだ。
あの小雨の日から、十日ほど経ったその後も、彼は舞の目の前にちょくちょく姿を現すようになった。
それがこの二年、不思議なこの男性と会うまでの話。
そして彼が知りたがった『舞』と、美味しいお茶を煎れてくれる『父』と、気に入ってくれた『スミレ・ガーデンカフェ』の話。
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