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時間の長さというのは、その時の状況で感じ方が変わってくるものだ。
テスト中、大量の問題を解ききれなさそうな時のあと五分は異様に短い。
逆に、バイト中に閉店までの五分は長い。客がたくさん来たりする。
「有効稼働時間、あと五分です」
では、乗っているロボットの稼働時間があと五分だと告げられた時は?
「上等ッ!」
僕の相棒が、勢い良く吠えた声がインカム越しに聞こえた。
相棒が乗る赤いロボット。その目の前にいる巨大生物はまだまだ元気に暴れまわっている。
「稼働時間があと五分なら、操縦テクで十分に伸ばしてやるわよ」
相棒は時間の概念を超越しようとする。むちゃくちゃだ。
まあ、そうなのだ。彼女は、むちゃくちゃな人なのだ。
実際に彼女の操縦技術はスマートで、他の人が同じ機体に乗る時よりもはるかに損傷が少なく、エネルギー使用量も少なく終わる。
多分、相棒なら目の前の巨大生物を大人しくさせる時間を稼げるだろう。
だけど、舐めてもらっちゃ困る。僕たちは、二人で一組なのだから。
「ミカ、その心配はいらないよ」
作った料理を転送する。おからのハンバーグ。
「僕が間に合わせるから」
次の品を作る手を止めずに言うと、
「あら、じゃあ私の出番、少ないわね、ざんねーん」
軽口が返ってきた。
「ほら、ヤっくんのご飯食べなさいよ!」
相棒が操縦するロボが、巨大生物におからハンバーグを押し付ける。
僕たちの仕事は、地球外生命体のおもてなしだ。
地球外生命体との交流ができて十数年。僕ら地球人が直面している最大の問題が、外からのお客様が巨大化して暴れることだ。地球の何らかの物質が悪く働くらしく、地球外のお客様の何割かは、地球に来た段階で自我を失い、巨大化し、暴れる。
しかし、本来は友好な存在でありお客様である地球外生命体を倒すことはできない。幸いというかなんというか、彼らはお腹いっぱいになると地球人サイズになり大人しくなる。だから、倒さずにおもてなしし、お腹いっぱいになって大人しくしてもらう。
そんな特撮ヒーローが聞いたらひっくり返るようなけったいな役目が、僕たちの仕事だ。
僕が料理し、それを装置で巨大生物サイズにした上で転送し、ロボに乗った相棒が食べさせる。
慣れた仕事だが、今回長引いてしまったのは、本日のお客様がベジタリアンだったことだ。僕はとりあえず腹さえふくれれば良いというスタンスでやっているので、がっつり肉料理を提供する。野菜料理になった瞬間、腹にたまるものが作れなくって困ったのだ。
だけど、これでもここまでやってきた自負がある。
相棒にだけ、頑張らせるわけにはいかない。
初手は出遅れたが、食べ応えのあるものを作って提供していく。芋、最高!
どうにかこうにか、五分以内にお客様にご満足いただくことができた。無事終わったことに安堵する。
諸々の片付けを終えて、基地に戻る。
「あ、ミカ」
先に戻っていた、見なれた背中に声をかける。
「今日は、ごめんね」
振り返った彼女に謝る。
「何が?」
「ギリギリになっちゃって」
「ああ、別にいいのに」
大丈夫だったし、と続ける。
「いや、でも、あと五分のアラートはさすがに初めて聞いたし。肉ダメパターンも考えとくから」
「まあ、やるっていうなら止めないけど。でも、別に本当に平気。私がヤっくんに合わせるから。最初に言ったでしょ? 私と組んでいる限り、あなたは絶対に死なないって。だって私、」
そうして彼女は不敵に笑った。
「機械と踊る、機械姫だから」
ロボットを愛し、惚れ抜いて、だからここに就職した彼女は機械に愛されている。誰よりもうまく動かせる。
「うん、そうだね」
僕はそれに頷きながらも、ちゃんと料理のレパートリー増やそうと誓う。
満足げに笑い歩き出す相棒の背中を見て思う。
あの細い背中のどこからそんな自信が湧いてくるのかわからない。その自信にいつか足元をすくわれるかもしれない。次の五分が乗り切れるとは限らない。
だけど、その時に彼女を傷つけるようなことにはしたくない。だから、相棒として最大限できることをするのだ。
いつか、「私がヤっくんに合わせるから」じゃなくて、「二人で協力し合おう」と言わせるために。
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