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俺は、むすっとして言った。
「小暮 雅人、だ」
「おい、小暮」
不意に、誰かに呼ばれて、俺は、振り向いた。
この、無駄に、いい声は。
そこには、噂の主、刈谷兄が立っていた。
「帰ろう。家までうちの車で送ってやる」
「いや、結構です」
俺は、即答したが、ぴよこと、子犬が脇から出てきて言った。
「本当に?ありがとうございます。刈谷さん」
「僕たち、小暮くんの大親友で、今日も一緒に帰ろうねって、言ってたとこだったんです」
「何、いっ」
二人は、俺の口許を押さえつけてきた。
結局、俺とピヨコと子犬は、刈谷兄の車で家まで送迎されることとなった。
刈谷兄は、ピヨコと子犬に、愛想よく話しかけ、二人を家まで送り届けると、ネクタイを緩め、俺に向かって言った。
「ほんと、うざい連中だ」
「でも、少なくとも、俺よりは、あの連中の方が、あんたのこと、好きなんじゃね」
俺がいうと、刈谷兄は、にこっと笑って、言った。
「お前のそういうとこ、嫌いじゃないな」
「俺は、あんたが、大嫌いだ」
俺は、言いきってやった。
マンションの前まで来ると、俺は、車から飛び出し、少しだけ、振り向いて言った。
「送ってもらったことは、礼を言っとく」
そして、俺は、マンションへと駆け込んだ。
ややこしいことにならなきゃいいんだが。
俺は、エレベーターの中で、ため息をついていた。
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