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夏らしいこと、したくね?
「夏だー!」
宇田くんが、グーの形にした両手を突き上げながら教室に入ってくる。
一番入り口に近い相沢くんが、おはようと声をかけ、宇田くんは「おう」と答えた。その後ろに座る伊藤さんは、迷惑そうに顔を上げ、読んでいる文庫本に再び目を落とした。
「朝からうるさいよ」
私の前の席に座っている美佳が吹き出す。
宇田くんがエナメルバッグを床に下ろすと、どさりという重たい音がした。
宇田くんは、伊藤さんの真後ろ、美佳の右隣の席に座る。
「今日最初に会ったんだから、おはようが先だろ!」
「あんたもね!」
美佳が笑い混じりで応じる。
「てか、夏だーってなによ?」
宇田くんが窓から見える青空を指差した。
「本日は快晴。入道雲。これからどんどん気温が上がるんだろうなあと期待させる、熱気。これぞ夏! だろ?」
「快晴は雲が1割以下の空のこと。だから入道雲があったら快晴じゃないの」
呆れた声で美佳が言った。
「諸説あります」
なぜか胸を張る宇田くん。
「ないし。それに、その言葉万能じゃないからね?」
その時、カツカツという音が右側から聞こえてきた。
遠藤くんが人差し指の爪で、私の机の角を叩いた音だった。
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