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ラスト5分の恋
わたしの記憶は1日しか維持できない。
出来損ないの脳みそだ……。
*
朝、目覚まし時計の音で眼が覚める。うるさく鳴り響いているアラームを止めて、時間を確かめた。
時刻は、朝の7時をさしていた。
私にとって、今日も“初めまして”からのスタートになる。
家族以外の人たちは、みんな初めましての人ばかりになるんだーーー
「はぁ……」
憂鬱な気持ちのままベッドから降りて、学校へ行く支度をする。
わたしは、生まれつきの記憶障がいを患っていた。
記憶障がい……。なんて響きの悪い言葉だろうか。
しかし、わたしの記憶は“人との関わり”のみ消えて、翌日にはリセットされるという、最悪なパターンだった。
昨日、誰と関わりを持っていたのか忘れてしまう。そして、今日も今日という日を忘れてしまうのだ。
わたしの記憶は1日しか維持できない。
翌日には忘れてしまう。
最悪な障がいだ……。
だけど、学校で学んだ授業だけは覚えているから、学力は人並みにはあるだけマシなのかもしれない。
学校へ行く支度を整えて、リビングへと降りた。
リビングに入ると、朝ごはんの美味しそうな匂いが鼻をくすぶる。
「あ、おはよう……。ユメ」
「おはよう。お母さん」
お母さんは、いつもどこか、わたしの姿を見るたびに“罪悪感”からくるものなのか、後ろめたさを感じるような表情を浮かべていた。
それだけは、記憶から消去されないんだな。
ーーー家族の記憶だけは……。
食卓に着き、お母さんが作った朝ごはんを口に運んだ。
静かな食卓。わたしは、何も言わずにモクモクとごはんを平らげていった。
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