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静かだった教室に活気が戻る。
何ごともなかったかのように、誰から会話を切り出したのか、一気に賑わいを取り戻した。
窓の外を眺めている時、またもや、教室が静かになる。
どうしたんだろう? と思い、わたしはちらっと、みんなの方に顔を向けると、わたしの背後に見知らぬ男子生徒がいた。
「こんにちは!」
「……え?」
知らない男子生徒が、人の良さそうな笑顔でそうあいさつをしてきた。
図々しいことに、わたしの前の空いている席に座る。変わらない笑顔を向けて。
「……え、誰?」
目の前にいる男子生徒にそう聞いた。
一瞬、男子生徒の表情が悲しげに笑ったように見えたが、すぐに人当たりのいい笑顔に戻ったので気のせいだろう。
「あ、オレ? オレは加藤健太、佐倉ユメさんと同じクラスメイトだよー!」
ヨロシクね! と、握手を求めてきた。
わたしは、彼の差し伸べる手を握り返すことはしなかった。
その代わり、彼にこう告げた。
「そう……。なら、わたしに関わらないで」
それだけ言い、わたしはカバンの中から小説を取り出し、ページを開いた。
「そっか、わかった! じゃあ、また、明日声をかけるよ!」
彼は、明るい声で「またね」と言って、自分の席に戻って行った。
「……なんなのよ、あの子」
どうせ、わたしの出来損ないの脳みそは、今日の出来事なんて忘れるのに。
それから、加藤健太という男子生徒は、“毎日”わたしに話しかけてくるようになる。
そして、当のわたしは、案の定、彼の存在を綺麗サッパリ忘れてしまうのだった。
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