シんだ友達とカラの箱

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「やっかいなことに巻き込まれたな、お前も」  彼女の死から少しの時が流れて、周囲が落ち着いた頃。  久しぶりに会った彼はそう言いながら、ホテルのベッドの上で煙草に火を点けた。煙をはいてみせる。これみよがしな、溜息のつもりだろうか。 「それにしても、お前がアイツとそんなに仲が良かったとはな」 「別に。仲良くはないわ。利害が一致しただけ。――でも」  言いかけた言葉を飲み込む。  彼の顔をじっと見つめる。変わってしまったな、などと思いながら。  そうさせたのは、仕事か家庭か、それとも別れだろうか。  皺が増え、険しくなった表情。代わりに、少し肉の付いた体。  訝しむような顔つきと懐疑的な眼差しから逃れるように彼に背を向ける。  窓としての役割を殆ど成さないガラスを、隠すように掛けられたブラインド。  そこから見える景色の八割が隣のビルの壁だった。初めて来た時は、随分とがっかりしたものだ。  思い浮かべる理想の、綺麗な景色とはほど遠い。  そびえ立つ壁の向こう。残りの二割で、夜景といえば聞こえはいい街明かりが輝いている。 「狭い世界だわ……」  聞こえないようにぽつりと零して、向き直る。  足早に彼の腰掛けるベッドに近付いて、彼に向かって傾れ込む。 「あなたが教えてくれたんじゃない」  家に、大きな水槽がある——って。  そう囁く。片腕で彼の素肌に指を滑らせ、もう片方で絡みつくように撓垂(しなだ)れ掛かりながら。  せまく、くらい部屋のなか、食い荒らされるように奉仕するように、欲望を貪った。
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