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「玲央を泣かせるなって言われたのに、早速泣かせちまったなぁ…」
「嬉しくて……。きっとなかなか許して貰えないと思っていたので……」
「親父は凄い男だ。俺もあんな大きな男になりたいよ」
「そうですね。僕、お父さんの息子で本当に良かったです…」
勇吾の処分は午前中のうちに行われた。
組長の右腕だった勇吾が起こした事件は組員達の動揺が激しく、処分を長引かせても良い事はないと判断してのことだ。
「……勇吾、お前は破門だ。小指だけで許してやるからケジメをつけたらシマから出て行け」
「………殺さないのか?」
「玲央がお前の処分について心配しているからな…。酷い事はしないでやってくれと」
「玲央が……そんなことを」
勇吾はそれ以上何も言わなかったし、央一郎も勇吾に何故あんなことをしたのか聞かなかった。
勇吾は淡々と玲央に折られた指を詰めると、その日のうちに荷物を纏めてひっそりと澤倉組から出て行った。
長年組に組に尽くしてきて、こんな去り方をするの勇吾にとっても無念だったかもしれないが…最後に央一郎に頭を下げてから出て行った勇吾は吹っ切れた顔をしていた。
俺に裸に剥かれて監禁されていたのに……処分を軽くして欲しいと頼むだなんて…玲央は優しすぎる。
それなのに俺は自分の欲望の為に、もっと取り返しのつかない事をしてしまうところだった。
央一郎と玲央から、警察沙汰にもされずせっかくやり直すチャンスを貰えたのだ。
これからは澤倉組から離れたところで、玲央の幸せを祈って生きていこう…。
勇吾がそんなことを思っていたことは誰も知らない。
ただ、皆の胸の中に苦い思い出だけが残る結末となってしまった。
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