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問題だらけの1日
沙良が解放された時間から遡ること12時間ほど前のことである。沙良を攫った男との電話を終えた颯太は現実感の無い目をして公園のベンチに体を投げ出し座っていた。
「どうすりゃいいんだよ…」
久しぶりのデートだからと楽しみにしていた今日という日はあっという間に気の重い一日へと変わってしまった。
犯人からの要求は要約すると
『日付が変わる前に1億円を持ってF港にある第12倉庫まで来い。当然だが警察に通報したらお前の彼女の命は無いものと思え』
というものであった。
1億円なんて非現実的な大金は日銭を稼ぐのでやっとの颯太が半日で工面するのは100%不可能な額だった。
一か八か警察に連絡しようか。警察ならこんな事件お手の物だろうし、うまく沙良を助けてくれるのではないだろうか…
颯太は一瞬そう考えたがすぐに頭を振った。相手がどんな人間かわからない。銃とか爆弾とか危険なものを持っていたら警察が近づいた瞬間に沙良に危害を加える可能性がある。沙良が無事じゃ済まない可能性がある以上その選択肢は捨てるべきである。
颯太は再び頭を悩ませる。
暑苦しい公園には蝉の声がめいいっぱい鳴り響いていた。颯太が着ているデート用に新調した服は汗のせいでビショビショに濡れていた。
そんな時突然ポケットから音が鳴り響き颯太は"ウォッ"と変な声を上げた。颯太のスマホに電話の着信が入ったのだ。犯人からの続報かと思い慌ててスマホの画面に目をやる。画面には"渡辺"という名前が映し出されて颯太は頭を抱えた。
「こんな忙しいときに連絡してくんなよな…」
軽く舌打ちをしながら電話に出る。
「もしもし…」
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