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渡辺は颯太と同じ劇団に所属している後輩である。彼もまた颯太と同じく貧乏でアルバイトをしながら日銭を稼いでいた。しかし彼はいつも変なアルバイトばかりを引き当ててしまうのである…
先日劇団の練習で集まった際のことである。颯太が壁にもたれて水を飲んでいると渡辺が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「見てくださいよ。いいバイト見つけたんすよ。」
そう言って渡辺が持ってきた求人情報誌には
"楽しく柿を収穫するお仕事。時給3000円!!"
という見出しが出ていた。
「たしかに割りがいいな。良いバイト見つかってよかったな。」
「先輩も一緒にやりましょうよ。」
渡辺が笑顔で誘ってきたので颯太は目を逸らした。
「いや…やめとくよ…」
「えー、なんでっすか?」
「お前の見つけてくるバイトはいっつも見出しと実体が違いすぎるんだよ…」
「そうっすかねぇ…?」
「お前この前も"パソコンでメールを送るだけ!"って見出しの求人情報を見て行ってみたらスパムメールを送りつける仕事だったろ…」
「あれは偶々っすよ。今日はちゃんとした仕事っすから大丈夫ですよ。」
そう言って次の日渡辺に聞かされた実際のバイトの内容はいろんな農家から柿を盗み獲ってくる仕事だったようで渡辺は何もできず事務所までの交通費を浪費しただけで帰ってきたという。
そんな渡辺からこの大ピンチのときに電話がかかってきたのである。
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