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「あ、先輩良いバイト見つけたんすよ。」
電話の向こうからする渡辺の声はあまりにも呑気であった。颯太はイラっとして「切るぞ。」とだけ言って電話を切ってしまった。
「この大変なときに…」
颯太は深い溜息をついた。電話を切って数十秒後にまたスマホが音を鳴らし出した。画面にはまた"渡辺"という名前が映し出されている。
無視しようとしたが留守番電話設定をしていなかったスマホは1分以上なり続けていて公園に響く蝉の鳴き声より鬱陶しかったので颯太は諦めて出ることにした。
「なんだよ!」
出た瞬間にブチ切れモードの颯太にも特に物怖じすることなく渡辺は呑気に電話を続けていた。
「今回はなんと旅行に行くだけで日給10万円ですよ。ヤバくないっすか?」
「知らねえよ!今忙しいから今日はもう掛けてくんな!」
そう言って颯太は画面に指を押し付けて電話を終わらせた。暗くなったスマホの画面には颯太の指紋がベッタリと付着していた。
「あー、クッソ…」と颯太はストレスの気持ちを口に出す。そうこうしている間にも約束の時間は少しずつ近づいていた。
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