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「そうとなれば早速、明日出かけましょう」
「明日?」
突然の誘いに戸惑いを隠せない。
そもそも明日は仕事だ。生活をしていくためにも休めない。
「仕事が終わってからでいいです、付き合って貰えませんか」
「仕事が終わってからなら…別にいいけど…どこに行くの?」
「それは着いてからのお楽しみです。明日の夜、迎えに来ますね」
ノアは悪戯っぽく笑みを浮かべ、それだけ言ったかと思うと翼を広げてふわりと消えた。
──本当に人間じゃない。
ほんの数十分の出来事。
現実世界から切り離された空間に居たような、そんな感覚になった。
突如現れた、天使にしか見えない男に自殺志願者の魂を狩る死神の話、真っ白で大きな翼と宇宙のような瞳。
そして明日の約束。
「…寝よ」
死神の話とか、天使じゃないのに翼がある理由とか、いつから私を知っていたのかとかもっと色々と聞きたいことがあったのに
「生きようと思える理由を見つけましょう」
その言葉に全てを持っていかれたような気がした。
「明日いろいろ聞こ」
扇風機の風をベッドへ向け、部屋の電気を消す。
少しだけじっとりとした風がカーテンを揺らした。
ノアがいた時は気づかなかったけれど、今夜は熱帯夜のようだ。
男の人と「明日の約束」をするのは何年ぶりだろうか。
それが人間ではなく翼を持ったカウンセラーだとしても。
私は、ほんの僅かに口元の緩みを感じながら眠りについた。
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