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好きな小説は幾つかあって、その中のひとつにこんな話がある。
自殺をした主人公が天国でも地獄でもないところで天使に出会い、生き返って人生をやり直す。
けれど生きていた時の記憶は全てなくなっていて全く別の人格として生き返り、生き返る前の自分が置かれていた環境を知っていく。その上で試行錯誤を繰り返しながらやり直していくという話だ。
学生の頃、友人に勧められて読んだ小説で、以来読んでいないし書籍も持っていないのでどのように話が終わったかはっきりとは覚えていない。
突然そんなことを語って何を言いたいかというと、いま私が経験しているこの出来事は、まさにその小説のようだと感じたということだ。
カウンセラーって言ったって、一般的に想像するような外見ではない。
そもそも浮いているし。翼だって生えている。
どう贔屓目に見ても天使そのものなのに、天使ではなくカウンセラーなのだそうだ。
天使ではないと頑なに言われ、少し残念な気もした。
男の顔を見ると、瞳の中で小さな星のような光がキラキラとしている。それはまるで宇宙のようで、吸い込まれてしまいたくなるような。
「瞳、きれい…」
思わず口にした途端、現実に引き戻される。
瞳が綺麗だとかそんなことよりも大切なことがあるのではないかと、頭の中のもう一人の自分が言う。
「ずっと会いたかったんですよ、あなたに」
男は手品のように翼を仕舞い、私と同じように手すりに座った。
心地よい夜風が通り過ぎる。
男があんまりにも真っ直ぐに見つめてくるせいで、私は顔を背けることが出来ない。
長い時間人の顔を見て話すことが苦手な私は、じんわりと顔が熱くなっていくのがわかった。
沈黙に耐えられなくなり口を開く。
「私が死にたいから、会いに来たの?」
「さっきそう言ったじゃないですか。ずっと見てたんですよ、あそこから」
そう言いながら男が指さしたのは、無限に広がる空だった。
「やっぱりお化け…」
「違いますって!これからちゃんと説明するので聞いていて下さい。大切な話です」
───。
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