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「……ひとつ聞きたいことがある。お前の名字って何?」
「え!今更?」
「は、お前も俺の名字知らねーだろ」
「え、そうだっけ?」
「それで?名前は」
「夏沢だよ」
前々から、聞かなければならないと思っていた。
擦り抜けそうな君を知らなければ。
ああ、君らしい名前だと感嘆したあと、俺は、全てをリセットするみたいに、むせ返るような空気をゆっくりと吸い込む。
手元の残りのアイスは、溶けてぐちゃぐちゃになっていた。
煩いほどのセミの鳴き声に掻き消されないように、ゆっくりと声を出す。
「俺さ、ハルが好きなんだ」
確かに彼女に届いた言葉が、「え?冬じゃなくて春が好きなったの?」なんて返されないように、もう一度言葉を紡ぐ。
「夏沢晴海が好きなんだ」
揺らいだ君の瞳が、やっと俺を見た気がした。
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