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キョロキョロと辺りを見渡しながら、自転車を走らせた。
確か、アキのマンションの近くに、河川があったはずだ。
私の幼い記憶にあるのは、もっと山の中の木と岩に囲まれて、泳いでいる魚が煌めいて見える川だけど、ここも街中にある分には充分綺麗な川だ。
その近くに、昔ながらの売店なんてないし、たくさんおまけをしてくれるおばちゃんもいない代わりに、コンビニはあったはずだ。
私がそんな目星をつけながら、風を切って自転車を走らせている間も、アキはブツブツと何か言っていた。
「めんどくせぇ」だとか、「あちぃ」、「帰りてぇ」とか。
日本人はネガティブだと聞いたことがある。
そうでないと思っている人すら、日本の謙遜という文化を吸収している時点で、どこかネガティブなのだ。
アキに至っては、それを改善しようという考えもなく、むしろ権化だ。
ちょっと前、彼に「お前って、アメリカ人かなんかなの?」と聞かれた私とは真逆なんだろう。
性格も、好きな季節も真逆。
「なあ、どこまで行くんだよ」
「すぐそこだって」
「なあ、あちぃってば」
「いいじゃん、あとちょっと!」
後ろを走る彼は珍しく、額に汗を滲ませていて、白いシャツはしっとりと体に張り付いていた。
その光景があの夏を彷彿とさせた。
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