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アキはハルが好き
大学が夏休みに入り、図書館で勉強をして時間を潰す日々。
サークルに入るなんてめんどくさいし、講義も最低限受けるだけでいい。
遊びに出かけるのも、友達をたくさん作るのも、なんなら話すことすら。
エアコンをつけて、ずっと一人で寝ていたい。
俺にとって「それって面白いの?」は愚問だった。
そんな時、俺の考えをなぞったかのように聞こえてきたその言葉。
「それ面白い?」
鈴が転がるような声だと思った。
大学の課題図書を仕方なく読んでいた俺に、話しかけてきたお前……ハル。
未だに、上の名前は知らない。
多分、アイツも俺の名字は知らない。
一ヶ月間、ほとんど一緒にいるくらいの仲になったのに、不思議とお互いのことを全然知らない。
すごく距離が近いのに、この夏が終われば、こんな脆い関係もなかったことになるんじゃないかと密かに焦っているくらいだ。
連絡先も知らなければ、住んでいる場所も知らないし、話に何度も出てくる地元がどこかも詳しく知らない。
わかるのは、開館時間になったら二人とも入館口にいるということと、彼女が同い年であることぐらい。
さっき、ハルが「面白いか」と聞いたのは、これまで会ったことがなかった俺の生き方についてではなく、俺の読んでいた本の方だった。
聞けば、ハルは、俺と同じ心理学を専攻しているらしく、論文用の本を探しているそうだ。
まあ、俺が知っているのは、さっきも言った通り、これだけだ。
この図書館は、丁度二つの大学の間に位置しているから、隣の大学の学生と出会うのは特に珍しいことじゃない。
珍しいのは、負のオーラを纏った他人の俺に急にタメで話しかけてくるハルの方である。
正直、めちゃくちゃ変なやつだと思った。
その反面見た瞬間、ドクンと左胸が脈打った。
そう、一目惚れと言っていいほど性急に惹かれていた。
その純粋な心にか、思いもよらない彼女の行動にか。
今までの俺なら、色々とありえない。
ハルの好きな夏の暑さが、俺をとことんおかしくしたのだ。
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