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第7話:天使を狩りに
最終日を迎え、学祭の準備は佳境を迎えていた。
海翔と詩織は最早手慣れたものだと作業を進めている。
物理的に山積みになっていた材料たちは、今や色とりどりの小物や衣装などに変身している。
初日、残された作業量に若干の絶望感に襲われた。
二日目、詩織が手伝ってくれたため、微かながら希望の光が差し込んだ気がした。
そして最終日、永遠に続くと思われた作業もこの人形を置けば終わる。
何とも言えない感慨深さが海翔を包む。
初めは押し付けられた事ではあったが、ここまでやり遂げたという達成感と、そして少しの名残惜しさ。
人を頼るという事ができない海翔にとって、誰かと協力して目標を成し遂げるという事は新鮮でとても楽しかった。
なのでこの人形を置くという最後の一手が中々打てずにいた……。
という事は無くスッと置いた。
長かった学祭の準備はあっさりと終わった。
「「いえーい」」
作業の終了を祝い、二人でハイタッチをする。
本来ならもっと喜ぶべきところではあるのだが二人とも、既に体力の限界なのだ。
気を抜けばすぐにまぶたはトロンと落ちてしまうだろう。
「ありがとう、遠藤さん。今度何かお礼するよ」
「気にしないで。好きでやってた事だから」
「そうはいかないよ。何か欲しい物とかある?」
こんな大変な事を手伝わせてしまったのだ。
流石に何か礼をしないと申し訳なさで死んでしまいそうだ。
「う~ん……」
詩織は腕を組んで考えている。
だが確かに、急に欲しい物とか言われても難しいかもしれない。
「じゃ、一先ず保留って事で!」
詩織はそう言って海翔に向かって人差し指を立てた右手を差し出し、ウインクをした。
そのあざとい可愛げに海翔の心臓は一段と激しく脈打つが、それを悟られないようにコホンと咳ばらいをした。
「分かった。遠藤さん、本当にありがとう。たぶん一人だったら間に合わなかったよ」
「いいのいいの。困ったらお互い様でしょ? それより、明日の学祭楽しもうね。折角準備頑張ったんだからさ」
「そうだね」
折角ここまで頑張ったのだ。
すこしくらい羽目を外したって構わないだろう。
これまであまり興味が無かったが、いざ自分が作る側になってみると他のクラスや部活はどんな出し物をしているだろうかとか若干気になっている。
「じゃ、今日はもう帰ろうか」
手早く道具を片付け、二人は並んで廊下を歩く。
廊下は色とりどりの装飾が施され、明日は特別な時間が流れるのだという事を想像させる。
「ねぇ、中川君。明日もちゃんと学校来るよね?」
詩織は突然立ち止まり、海翔の制服の袖をつまんだ。
気づかなければ無意識に振り払ってしまうほどの、弱々しい力だった。
「え? うん。風邪を引く予定はないけれど」
冗談交じりで海翔は答えた。
予想する事は出来ない風邪を引くという事を予定とする高度なギャグだ。
そもそも海翔は学校をサボった事は無いのだが、なぜわざわざこんな事を聞くのだろうか。
「そう……だよね。ごめん、気にしないで! それじゃ、またね!」
詩織が駆け足気味で去っていく。
なぜ詩織があんな質問をしてきたのか全く見当がつかないが、深くは追求するなという事だろう。
あまり海翔は詩織の様子については深く考えなかった。
そんな事よりもっと重要な用事がこの後に控えていたからだ。
マカイズの討伐。うまくいくだろうか。
昨日は結局ブワッとか、バッとか擬音ばかりの作戦が決定した訳だが、正直不安しかない。
考え事をしてたらいつの間にか家に着いていた。
よし、と気合を入れてから家に入る。
すると、玄関の方までコーヒーのいい香りが漂って来ている。
(おかしいな。母さんは今日も夜勤のはずなんだけど)
そんな事を思いながら、リビングのドアを開ける。
「よぉ、遅かったな海翔。これ、コーヒーってやつだったか、中々悪くねぇ味だな」
クロウは呑気にコーヒーを飲んでいた。
しかも昼間の内に買ってきたのだろうか。
満足げな笑みを浮かべ真っ赤なマグカップを傾けている。
「……呑気だね。クロウは緊張とかしないの?」
「緊張? する訳ねぇだろそんな事。くだらねえ事言ってないでたったと準備しろ」
クロウは適当にあった雑誌を読みながらこっちも見ずに答えた。
「分かった。ちょっと待ってて」
準備の為急いで自分の部屋に戻る。
でも準備って何をすればいいのだろうか。
バットとか武器を持っていけばいいのだろうか。
(あ、家にバット無かったわ)
一人でボケて一人で突っ込む。
さっきクロウにああ言ったけど意外なほど、海翔も緊張していない。
どちらかと言うと普段より落ち着いているくらいだった。
「ま、緊張でガチガチよりはいいのかもね」
何を準備したらいいか分からなかったので私服に着替え、結局手ぶらで降りた。
「よし、じゃあ行くか」
「行くって何処へ?」
クロウはニッと笑って答えた。
「決まってんだろ? 湊孝輔の家さ」
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