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家に帰ると小机にB5のノートを広げて、Mさんの話をまとめる。傍らにはメモ帳とICレコーダーを置き、普段なら見落としがないよう聞き漏らしがないよう確認しながら作業するものだが、今回の話はその手間もいらないだろう。Mさんには悪いが、気配を感じる、ただそれだけの話と言ってしまえば、それだけの話で終わってしまう。
ふと、背中に何かが当たった。
振り向けば、ドアがそこにあるだけで何もない。念のためにドアを凝視するも勝手に開いた様子も閉じた様子もない。
着信音が弾けた。慌ててポケットからスマホを取り出して電話に出た。
「すみません」
Mさんだった。
「えっ、」と要件を聞こうとすれば、
「すみません」と畳掛けられる。
「あの、」
「すみません」
「すみません」
「すみません」
「すみません」
Mさんの声が自動音声のように何度も何度も再生される。それが異常なことだと気づいていても、スマホを耳から離すことはできなかった。
ピタリと張り付くような気配が、背中にある。
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