煌めく星

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 月は見ていた。  ゆっくりと回り続ける青い星を。その星を彩る、無数の小さな煌めきを。  『街』と呼ばれるその場所に、鮮やかに犇めく色とりどりの光。『ネオン』と言うらしいそれらは、自らの背後に浮かぶ幾千もの星々の輝きに、勝るとも劣らない。  何故、この景色にこんなにも心奪われるのだろう。  月は考え、そして思う。    ああそうか。  この色鮮やかな『ネオン』の創造主である、小さき者たち。彼らの命は星達のそれとは違い、余りにも短い。だからこそ、彼らの生み出すこの光は、心に焼き付いて離れない。  青い星に揺蕩う、吹けば消えるように儚い、命の灯火。  その煌めきの一つである、とある親子の会話が月の元まで届いた。 「琴ちゃん、もう寝る時間よ」 「お母さん!ほら見て、大きなお月様」 「あらほんと、綺麗ね」 「でもあのお月様、青くて冷たくて、泣いてるみたい」 「…そうね」 「お母さんったら。もう私、大きくなったんだから抱っこはしないって言ったでしょ。ご飯もこぼさずに食べられるし、お歌だってたくさん歌える。だから…。もう、お母さんったら!…ちょっとだけだからね」 「…」 「…ねえお母さん。ルルはほんとにお空に帰っちゃったの?もう戻ってこないの?」 「…ええ」 「私、ルルに会いたい」 「そうね。お母さんも会いたい」 「…ねえ、お母さん」 「なあに?」 「お母さんも、いつかお空に帰っちゃうの?」 「そうね、いつかはね」 「嫌だよ。いなくならないで…」 「琴ちゃんったら。泣かないの。もう大きいんでしょう?」 「だって、嫌だもん。お母さんがいなくなっちゃったら。…そうだ、前にお隣のおばあちゃんが言ってた。人も虫も、お空に帰っても、また生まれ変われるんだって。だから、もしお空に帰っちゃっても、お母さん、また会いに来てくれるよね?ね、そうだよね?」 「…ええ、そうね」 「良かった!じゃあ私も生まれ変わったら、またお母さんの子供になる!」 「そうなったら、とても素敵ね」 「私、絶対に絶対にお母さんを見つけるから。だから、お母さん、待っててくれる?」 「ええ、もちろん」 「お母さん、ちゃんとお父さんと結婚してるのよ。ルルも一緒だからね!」 「そうね、そうなったらいいわね。本当に…」 「どうしたの?お母さん、何で悲しい顔してるの?お腹が痛いの?」 「…大丈夫よ。さあ、そろそろ寝る時間よ」 「嫌。もうちょっと抱っこ」 「もう、琴ちゃんったら」  やがて、小さな小さな明かりが消え、優しい寝息が月明りに溶けていく。  月は聞く。柔らかく湿った声を。 「きっといつか、あなたも知るのでしょうね。人には必ず別れが訪れるという事を。…だけどね、時々、お母さんも願ってしまうの。本当に、ずっと、ずうっと、あなたと一緒に居られますようにって…」  柔らかな髪に触れる母親の姿を、その頬を伝う流星の煌めきを、月はその大きな瞳の中に映したように思えた。  ほう、と月はため息を吐く。  思い出したのだ。  遥か遠い昔、とはいえ月にとっては星の瞬きほど前の出来事だが、まだ『街』に『ネオン』の煌めきが無く闇に満ちていた頃。月光の下、が今と全く変わらぬ会話を交わしていた事を。  月はクスリと笑う。    ゆっくりと廻り続ける星々の上を、優しい光が照らしていた。
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