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「じゃあ・・・僕ちょっとスーちゃんのとこにいってくるね」
「気をつけるんだぞ」
部屋から数歩の距離をどのように気をつければ良いのだと
内心突っ込みをいれつつ扉を閉めて深い溜め息をついた。
こんこん。
「レリ君、ど~ぞど~ぞ入ってくださいですぅ~!」
と手近な椅子を進めてくれた。
何故か口がまだもぐもぐしている。
「朝食の後って何故だか小腹が空いちゃいますよねぇ~
レリ君もおひとつど~ですか~?」
とスーはテーブルの上に置かれた籠から可愛らしい包装のクッキーを手渡す。
スーの胃袋の大きさにはもう大分慣れていたので今更リアクションもないが
そういえばレリエは朝食をあまり食べていなかったことを思い出し
スーにもらったクッキーを口にする。
「あの二人、まだ喧嘩しててね、さっきよりひどくなってるんだ、
ちょっと居たたまれなくなって出てきちゃったんだけど、
なんとか仲直りさせられないかな?」
「あら~そうなんですね~、何やらいつもより激しめでしたよね~」
「うん、いつもならすぐもとに戻るんだけど今日はふたりとも意地はっちゃってて・・・」
「雨降って地固まるって言葉もありますよ!?
成り行きにまかせるのも有りかもですよ~」
とスーが得意げに人差し指を上げる。
レリエはたまには聖職者らしく助言っぽいことも口にするんだ・・・
などとちょっとひどいこと思ったが
カイと違ってレリエは思ったことをすぐに口にするようなタイプではない。
「ううん・・・でも今回は雨っていうより嵐なんだよ・・・」
しゅんとする小動物の様な少年を見ていると聖職者としての
こみ上げる慈悲だけでなく
スーの中の庇護欲までも抑えられなくなってしまう。
「そのクッキーを買った喫茶店なんですけどね、最近できたお店でとっても人気なんですぅ」
「あ・・・うん、ごめんね、すごく美味しいと思ったけど
あの二人のことが気になって・・・」
別にスーは感想を求めていたわけではない。
がその誤解も気にせずスーは続けた。
「それでですね、そのお店で今月数量限定で販売された
限定メニューがあってですね」
「うん???」
「なんでも二人で食べると心が繋がるとか想いが深まるという噂なんですぅ」
おやおや?話の趣旨がわからないぞと笑顔を取り繕いながらレリエは思った。
「実は私、そのチケットを持っていましてですね、
お・・・お二人に仲直りのためになら
これ、使ってくださいですぅ!!!」
「スーちゃんそれって・・・」
きっとカイと一緒に行こうと思って手に入れたのだろうし
大の男二人で心が繋がるだとか想いを深めるとか想像すると
背筋に冷たいものが走る。
「いいんです!これを持って、さぁ!!!」
「でもこれはスーちゃんの大事なものでしょ、
それにあの二人にこれは・・・」
「大丈夫ですぅ、私でしたらまた次の機会があります、ね!」
半ば押し付けのような強引な慈悲深さである、
何故この仲間達はみんなこうも頑ななのだろうか・・・・・・
でもあのまま放っておいても拉致があかないし、どういった場所にせよ
ちゃんと話し合う時間は必要ではある。
「わかったよ、ありがとう、スーちゃん。」
「きっと上手くいきます~!私はカイさんを誘い出すのでナオヤさんのほう、お願いしますね!」
とスーはチケットを一枚渡して天使の微笑みを浮かべる。
眩しい・・・・・・まさに聖女。
レリエは一抹の不安が胸を掠めていたが
その眩しさですべてがふっとばされてしまった。
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