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喪失
秋も深まった、一年は歳を経ることに早く過ぎる気がする。そんな直生は今日も古書店のレジで客を待つ。読書の秋とは言えども最近は何も電子化が進んでしまって、新刊の売れ行きはいまいち。古書店なんか特にだ。本を芸術と思う一部の人々のおかげで今生活は成り立っていた。しかし……。
「そう言うことでさ、直生ちゃん。悪いね」
直生はその話にただ呆然として、しかし驚いたものの思ったよりすんなりと受け入れた、まあそう言うこともあるだろうと。
御田村古書店が閉店する。夫妻ももう七十代後半の年齢で今後は年金だけで静かに暮らして行きたいと、その日はやけに風が強くて古びた窓ガラスがガタガタ鳴っていた。
仕事がなくなったと言うことは住むところも失ったと言うことだ。古書店で住み込みなんて好条件の仕事は多分もうない。しかし高校も通わずに家出した直生は雇ってもらえる仕事は限られる。今の仕事だって半ば亜貴が無理やりにねじ込んでくれたようなもの。男の大人がいれば泥棒よけにもなるとか、まるで番犬の扱いとして。
「直生、表の張り紙なんだよ!」
休日には意外と最近マメに遊びにくる亜貴がめざとく気がついた。バイト募集の紙をはがして、閉店のお知らせがはってある。御田村古書店は急遽今月末で閉店する、せめて年内で、とかなら色々と余裕もあったのだが。
「見ての通り、閉店だよ」
「なんで!」
「もう十分雇ってもらったから、スローライフを送りたいって」
「お前は? お前はまだこれからだろうが!」
「雇い主にもの申す事なんて出来ないよ。ただのアルバイトだし」
淡々としている直生の代わりに亜貴の方が焦っていた。また直生の行き場がなくなってしまう、再び無理な条件で不幸な環境に置かれでもしたら……と。
「おい」
「何?」
「直生、お前俺の家に来い」
「は?」
「三ヶ月前に引っ越したって言っただろう? 部屋は一部屋空いている。仕事も一緒に探してやるから!」
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