無彩色

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 亜貴がレジの隣で値札を貼る直生の手伝いをしながら真夏の商店街を眺めていると、数人の高校生が入店する。部活帰りだろうか、先ほどとは違う学校の制服だった。やはり漫画本のコーナーにかたまって騒ぎ出した。直生の目は釣り上がり、暴発寸前。怒鳴ろうとした直生を慌てて止めて、亜貴は教師の顔して優しく声をかける。 「悪いなー、立ち読み禁止なんだわ。続きが気になるなら買ってね、寄り道もいいが夏休みの宿題もしろよ!」  直生は不満げだったが、高校生らは抵抗することなく帰って行った。苦笑する亜貴は慣れた手つきで値札を作りながら夏の夕焼けを待つかのように、しばらくの間直生と世間話に興じていた。    *** 「おや、今日藤尾さんいらしてたんかい。ああそれは、お茶の一杯もおもてなししないで……」  直生の夕食は店長である老夫婦と。午後八時も過ぎて店じまいもした、御田村大造とサヨ夫妻の自宅の一部屋を直生は間借りして暮らしている。それだけでなく、夕食も一緒に、今夜の献立はサバの味噌煮とほうれん草のおひたしに豆腐の味噌汁だ。直生はサバをつつきながらやまないセミの声を聞いていた。 「藤尾は単なる暇つぶしだったんですよ、気にすることはありません」  東京に身寄りもない直生がこうして日々を送れるのも、御田村夫妻のおかげだった。感謝と心からの恩返しするために、直生は時折怒りながら懸命に店番をしている。  その日の深夜、風呂も終えて二階の一間で直生は静かな時間を過ごしていた。一階で炊いた蚊取り線香の香りがここまで届く。濡れた髪の長い前髪の隙間から、直生は薄汚れた鞄の中に入っていた文庫本を見つめている。やがてそれを取り出して手のひらで埃を払い、愛おしいものに触れるかのように。
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