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暗闇の世界で目覚めたその者は白いYシャツに黒いズボンの姿だった。世間一般的に言われるサラリーマンの姿言えばわかるだろうか。見渡す限りの殺風景な世界での目覚めた者は冷静に考えた。なぜここにいるのかと...顎に指をあてて腕を組んでみて考えた。
「うーん、なぜ私はここにいる?ここはどこ?」
途方もなく同じ景色に何の躊躇もなく一歩歩いてみた。また一歩歩いてみた。そして地面というものを感じながら、歩いていく。しかし、以前同じ景色である。何か建物が見えるでもなく、地面の色が変わっていくものでもない。ただただ疑問が増えていくばかり....
そんな時、背後から声がする。
「なぜそっちに歩くんだ?」
落ち着いた声が囁くように聞こえた。それはその者が目覚めてから初めて聞いた声である。その声に反応して後ろを振り替えると、それは驚愕した。羽が生えているかのように宙を舞いながら一人のガスマスクを被ったヒトが腕を組んでそこにいたのだ。そのヒトはガスマスクの中でニヤリと笑みを浮かべて、その者にクイクイと手首を曲げて手招きをしている。こっちに来いという合図だろうか。半信半疑に思いながらも足をゆっくり進める自分の名も知らぬ者。しばらく連れて歩みを進めていくと、ガスマスクのヒトはその者に手のひらを見せて待ての合図を出した。それに反応しピタッと歩みを止める。ガスマスクのヒトは両手を頭上に徐々に徐々にあげていく。最大まで上げた両手は力を込めたのか筋肉が強ばった腕のようにぶるぶると両腕が震え始めた。そして震え始めた両腕からバチバチと空気に電気が弾けるような音が小さくなり始める。それは時が進めるうちに次第に大きくなり始め、その音の原因はガスマスクのヒトの両手を見たらすぐにわかった。時折一瞬出てきたり、出てこなかったりを繰り返す両手に巻かれた光る青い糸がその音の正体である。それはまたみるみる音を強め、糸の細さは厚くなり、出現と消失の回数を増していく。そしてそのヒトは両手を肘を曲げて肩までその両手を下ろし、一気に両手を漆黒の空へと上げた。そうすると巻き付いていた光る青い糸は、天高く昇る竜と化して見えなくなるまで登り、そして天から地へと戻っていく。その瞬間の音は空気に穴が空く轟音となり、光は逆光になるほど稲妻の如く力強い光を放ち、衝撃は土をえぐったかと思わせるほどのものを与えた。その者は咄嗟に顔を守るように腕を前に出して、腰を下ろす。それは自分を守ろうと無意識に動かした手足。気づいた時には動き、瞼を閉じていた。何が起きたかわからずまま恐る恐る瞼をゆっくり開けていく。瞼をゆっくり開けた時、そこには汽車がいた。
白煙が立ち込む中に影が出ていた。それは大きく、一部は丸く、一部は四角い影。白煙は少しずつ少しずつ消えていく。影がしっかりと形になっていく。突然の出来事にとそのサラリーマン姿の者は口を開き、呆気に問われていた。その時、また背後から...
「驚いた?」
ばっと振り向くと、体の向きを上下を逆にして宙に浮いてた。それに驚き、足を折り曲げて尻をついてしまう。
「うわっ!」
驚愕した顔がガスマスクの奥の目に止まると、声を大にして笑い声を出す。
「ハハハハハハハハ、そんなに驚いたの?ハハハハハ」
腹に手を置いて楽しそうに笑うガスマスクのヒトに対して、サラリーマン姿の者は口が閉じない状態でただただ困惑するしかなかった。
そして、白煙から影の正体が姿をあらわしていく、黒い鋼鉄の鎧を着姿はように黒鉛の色をした円柱、そしてその円柱から出てくる白煙と混じる黒い煙。ところどころ少し赤みがある鉄錆がかかった鉄製の円、その円と円を繋げるやや太い鉄棒。いろんな場所に繋げられた鉄パイプたち。正面の顔には白銀色のOT社の文字。円を繋げる端から端まで続く枕木とレーン。白煙の奥から出てくる姿はまさしく蒸気で走る伝説の汽車であった。さっきまで汽車と呼ぶどころか全く物体もなかったのに、瞬く間に汽車とレーンがあらわれたことにサラリーマン姿の者は目をパチクリとさせ、口を金魚の口のようにパクパクと開けるしかない。
(一体何が起きてる?急にガスマスクが現れて、汽車?ほんとにここは一体なんなんだ...)
その様子にガスマスクのヒトはガスマスク越しにフッと笑みをこぼし...
「さぁ出発の時間だ。」
そうガスマスクのヒトが言い放つとガスマスクのヒトは自然とサラリーマン姿の者の目の前に手を差し伸ばす。
「え?」
手を差し伸ばされた時、一瞬映画にいるようにサラリーマン姿の者に動画が流れてくる。それはある女性との楽しい会話。少し老いた見慣れた人。そして…
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