幻想の庭で少年は魔女と出会う

3/7
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 大きな瞳をきょろりと動かして、こちらを見た。濃い色の瞳に見据えられ、魅入られたように動けなくなる。 「帰らないって、なにが……?」  なんでもないふうに返したつもりだけれど、ユアンの声は震えていた。乾いた喉を潤すように、ごくりと唾を呑む。  緊張するこちらとは裏腹に、どこかのんびりとした声色で質問を重ねてくる。 「進級前なのに、家に帰らなくていいのかなって思って」 「風邪を、ひいて。ウイルス性のものだったから、移ったらいけないし」 「こうして外に出ているってことは、治ったんじゃないの?」 「うちには弟がいる、から。まだ小さいから、だから――」  抵抗力が弱いだろうから、近づかないほうがいいはず。先生たちも納得をした理由を述べると、「ふーん」と気のない返答を口の乗せ、続けて問うた。 「で、どうして帰らないの?」 「だからっ」 「帰りたくないの?」  低いトーンの声。  発せられた内容に冷や水を浴びせられたような気がして、ユアンは咄嗟に彼女から距離を取った。  冗談まじりに本人が口にした「魔女」という言葉を思い出す。  まさか、本当に? 童話に出てくる、人の心を読む魔女なのだろうか。  腰かけていた石から転げ落ち、その拍子にポケットに入れてあった手紙がこぼれて、相手の足元へ着地した。尻もちをついて動けないユアンにかわり、魔女が拾いあげる。  それは家から届いた手紙。  帰省しない息子(ユアン)に届いた、両親からの手紙だ。  体調を気遣う内容と、顔を見せに帰ってきてほしいという言葉が並んでいて、写真が一枚同封されていた。 「ほら、家族がキミを待ってるじゃない」 「……僕は家族じゃない」  思わずといったふうに言葉が漏れた。  口にした途端、熱いものがこみあげてきて、ユアンは衝動のままに声をあげる。 「僕は、ひとりだけちがうから。みんなきれいな金髪をしていて、僕だけがちがう。弟のジムはちゃんとお父さんに似ていて、マリーもきれいな髪をしていて、みんな一緒で、でも僕だけがちがうから」  家族写真。  父と継母、両親に似た子ども。  その中に、異質な自分の場所はないのだと、目に見える形で突きつけられた気がした。  おまえはもう、いらないのだ、と。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!