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大きな瞳をきょろりと動かして、こちらを見た。濃い色の瞳に見据えられ、魅入られたように動けなくなる。
「帰らないって、なにが……?」
なんでもないふうに返したつもりだけれど、ユアンの声は震えていた。乾いた喉を潤すように、ごくりと唾を呑む。
緊張するこちらとは裏腹に、どこかのんびりとした声色で質問を重ねてくる。
「進級前なのに、家に帰らなくていいのかなって思って」
「風邪を、ひいて。ウイルス性のものだったから、移ったらいけないし」
「こうして外に出ているってことは、治ったんじゃないの?」
「うちには弟がいる、から。まだ小さいから、だから――」
抵抗力が弱いだろうから、近づかないほうがいいはず。先生たちも納得をした理由を述べると、「ふーん」と気のない返答を口の乗せ、続けて問うた。
「で、どうして帰らないの?」
「だからっ」
「帰りたくないの?」
低いトーンの声。
発せられた内容に冷や水を浴びせられたような気がして、ユアンは咄嗟に彼女から距離を取った。
冗談まじりに本人が口にした「魔女」という言葉を思い出す。
まさか、本当に? 童話に出てくる、人の心を読む魔女なのだろうか。
腰かけていた石から転げ落ち、その拍子にポケットに入れてあった手紙がこぼれて、相手の足元へ着地した。尻もちをついて動けないユアンにかわり、魔女が拾いあげる。
それは家から届いた手紙。
帰省しない息子に届いた、両親からの手紙だ。
体調を気遣う内容と、顔を見せに帰ってきてほしいという言葉が並んでいて、写真が一枚同封されていた。
「ほら、家族がキミを待ってるじゃない」
「……僕は家族じゃない」
思わずといったふうに言葉が漏れた。
口にした途端、熱いものがこみあげてきて、ユアンは衝動のままに声をあげる。
「僕は、ひとりだけちがうから。みんなきれいな金髪をしていて、僕だけがちがう。弟のジムはちゃんとお父さんに似ていて、マリーもきれいな髪をしていて、みんな一緒で、でも僕だけがちがうから」
家族写真。
父と継母、両親に似た子ども。
その中に、異質な自分の場所はないのだと、目に見える形で突きつけられた気がした。
おまえはもう、いらないのだ、と。
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