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いつから認識したのかはもう覚えていないけれど、物心がついたころにはユアンは知っていた。
父や祖母と違って自分の髪は黒い色をしていて、それはとてもおかしいのだと知っていた。
亡くなった母親が黒髪で、祖母はそのことを疎んじていたらしい。
だから、新しい母親のマリーが標準的な髪色をしていることに安堵して、しきりに何かを説いていた。
マリーは笑顔で頷いていたし、父もまた見守っていた。
もともと、口数が多いとは言えない父である。
大声をあげたり、笑ったりしたところは見たことがないけれど、かといって叱られたこともない。ユアンに対して何かを説くのは祖母の役目であったし、母がいないのだからそれは自然なことだと思っていた。
汚いと言われて髪を短く刈りこまれたこともあるが、髪を引っ張られるよりはずっとマシだ。
目に映らないように家の中でも帽子をかぶっていればいいかと思っても、行儀が悪いとひどく叱られたから諦めざるを得なくて。
結局ユアンは、髪をうんと短くしていたものだ。
マリーに理由を問われたけれど、こちらのほうが好きだからと言って、押し通していた。
それはきっと、嫌われたくなかったからなのだろう。
精一杯、最大限に努力をして必死にすがりついていたけれど、寄宿学校へ行くことが決まったことで、すべては無意味であったのだとわかった。
自分はもういらないから、よそへ出されるのだ。
新しいお母さんのおなかに、赤ちゃんができたから。
ちゃんとした家族ができるから、お父さんにとって偽者の家族である自分は、もう必要がなくなった。
笑顔で、心の底から嬉しそうに「本当の家族」の誕生を喜んだ祖母の顔が、ユアンの頭にこびりついて、今もなお離れない。
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