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鉄道や駅を利用する者には、一人一人にドラマがある。
そう語る者もいるが、現実は戦争だと東壮一は断ずる。二十数年勤めあげた駅員人生、あったものは怒涛と喧騒である。
人々は慌ただしく改札を通り過ぎ、駅員はいかにその流れを滞りなく駅の内外へ進ませられるかが求められる。都会の駅ならなおさらだ。
先月から壮一が移動配属されたこの駅は一日の平均利用者数三十万人。新幹線との中継も兼ねていて、そこそこの規模があった。
――その存在に最初に気が付いたのは、同じ駅の女性職員たちである。
「あ、また来てる」
「ホントだ」
改札横の窓口から、改札の外にある連絡通路の方を見ながら女性職員二人がひそひそと。
今は仕事中だと壮一が咳ばらいをすると、二人は肩を跳ねさせて窓口に向かい直した。
彼女たちはなにに気をとられていたのか。連絡通路の方を見ても、なにせ休日の朝十時となれば最も忙しい時間だ。ひっきりなしに人が行き交っていて、二人が誰を見ていたのかわからない。
「あ、帰っちゃう」
「今日も五分だけだったね」
女性職員が残念そうな声をあげた。
「やっぱり、五分間の王子様なんだよ」
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