五分王子

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 一度気になると、あとはどうしても目がいってしまう。  どうやらあの少年は毎週日曜日に現れるらしい。ある日、同年配の女性職員に世間話にかこつけて例の少年について話題をふってみると、「五分王子ですよそれ」とあっさり答えがあった。  どうやらかの少年は、女性職員の間では有名らしい。どこぞの俳優に似ているとかで、語る彼女の顔はまんまミーハーだ。    「十時の列車が来る五分前に、いつもあそこにいるんです。  で、列車が到着すると帰っちゃう。  いつも五分しかいないから、五分王子」  女性のネーミングセンスはよくわからない。    「イケメンなうえに五分だけなんてミステリアスだから、皆で噂しているんです。誰を待っているんだろうって」  思い出すのは改札の前に立つ少年の、幸せそうな顔だ。  「なにかドラマがありそうじゃないですか。想像するだけならタダだし」  それに、と桃色に染めていた顔を沈ませて彼女はぽそりと言った。  「日曜十時の列車ってあれじゃないですか…三か月前の脱線事故。  もしかしたら、彼の待ち人はその犠牲者なんじゃないかって言う子もいるんです。  もちろん彼が三か月も前からずっとあの場所で待ち続けている確証はないし、私たちも気が付いたのはここ最近で。なにせ、あの時間は人の往来が多いから。  ただ、そうだったら切ないなぁって。  出歯亀なのはわかっているんですけど、ちょっと見守りたい気持ちになりますよね」  壮一がこの駅に勤務するようになったのは先月からだが、彼女の言う事故のことは知っている。連日ニュースにもなった。  この駅の近くにある踏切。そこで立ち往生していたダンプカーと列車が衝突、脱線したのである。  運転手は即死。混雑していた車内では、人と人が押し合い圧死した者もでた。  死者十三名、重軽傷者三十四名。乗客数に比べればいっそ被害は少ない方だ。 とはいえ所詮当時は別の駅の話。勤務している駅業務の方が壮一には大事だった。だから大変なことがあったな、ぐらいの認識だったのだ。  「被害者の中に、彼と関りがありそうな人がいたのか?」  「流石にそこまでは。それに不謹慎ですけれど、やっぱりただの好奇心ですから。わざわざ調べたりもしません」  その言葉に、壮一は普段の自分を見た。  乗客を流すだけの駅員。自分たちの役目はあくまで効率よく、問題なく、乗客を改札の外へ、中へ、進めるだけのロボット。  目を閉じると、背中を丸めて出口を目指す少年が思い浮かんだ。
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