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駅内にある療養室で、少年はベッドに腰かけ、顔に氷嚢を当ててぶすくれている。噂の王子様もこうやって見ると、どこにでもいる少年だ。
「救急車と警察には連絡してあるから、きみからも事情を説明してね。まあこの嵐でどっちもすぐには来られないみたいだけど」
「…ぅす」
「あと、駄目だよ。正気を失っている人を煽ったりしたら。ああいう人の相手をするのは駅員の役目」
「…す」
礼儀に難ありだが、しおらしい様子には少年の素直な性格が表れている。うちの息子にもこういう可愛らしさがあればなぁ、と思ってしまうのは親心だ。
「手間、かけました」
「いや、こっちも申し訳なかった。代わりに殴られるようなことになってしまって」
壮一は椅子に腰かけて少年の顔を観察する。氷嚢を当てている方の顔はすっかり青くなっていた。ただもう半分は女性たちが言うだけあってなかなか整っている。
「あんた、いい人だったんだな。駅員っていつも集まってくる人間を機械みたいにさばくヤツばっかだと思ってた。あんたは特にそう見えた」
少年が突然そんなことを言いだして、壮一は驚いた。
「俺、日曜はいつもこの駅に来るから。見るもん少ないし、あんたらのこともよく見てる。たまに女の人とか、こっち指してくるんだよな」
「…すまない」
女性職員のミーハーぶりは、しっかり本人にばれていたらしい。
「客あしらいは、あんたが一番うまいよ。あんたが対応した客はすんなり進んでいく。
ただ効率よすぎて、絶対ぇこいつ客のこと人間じゃなくてコンベアで流れてくる荷物ぐらいに思ってるな、って」
「…本人前にして言うか」
少年はけらけらと笑ってから、顔の痛みに呻いた。
その様子を眺めながら壮一は考える。コンベアを流れてくる荷物、か。
自分がロボットのようだと思ったことはある。そしてそのロボットがさばいているのは人間ではなく無機物だったのか。なるほど、それではドラマなんてものは見えてくるまい。
なにやらこの少年にやられた気になって、ちょっと意地の悪さから壮一は口を開いた。
「私もきみを知っているよ、五分王子くん」
少年は痛みではなく顔を歪めた。
「なにそれ、ダサ」
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