2.あばんちゅーる

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2.あばんちゅーる

「最後にもう一回だけ、りかさんに会いたい」 「だめ」 「寂しいよ」 「ダメなものはダメ」 「えー…」 「あれはアバンチュールってやつだよ」 「でも大好きだもん!」 どうして10歳も離れた私なんかにそこまで好意を抱いてくれるのかが分からない。 この年下大学生は、私の職場にいるバイトくんだ。 ある日バイトくんも含め、同僚達と飲み会になった。 ひと通り楽しく騒いでかなり酔っ払った私は、どうやらバイトくんに自宅まで送ってもらったらしい。 時間は0時をまわり、田舎ということもあって終電は1時間前に無くなってしまった。 「何もしないから」 というバイトくんの言葉を信じ、酔っ払った私は自宅へ招き入れた。 判断力が無くなっていたんだと思う。 酔っ払いながらもメイクを落とし部屋着へ着替えていると、バイトくんは部屋の主である私よりも先にベッドへダイブしていた。 「早く寝ようよ」 ソファーで寝るつもりだった私は、バイトくんへ手を引かれベッドに横たわった。 「おやすみ」 そう言って眠ろうとした時に、バイトくんの右手が私の身体に触れる。 ──あぁ、…やっぱりか なるようになってしまえ、もう会うことも無いのだから。 バイトくんは1週間後に他県へ引越しをする。 嫌だと言っても止まらないであろう大学生男子の性欲に、私は身を任せることにした。 もう失うものなんて何も無いのだからと言い聞かせて。 ─── 「おはよう」 「おはよ」 目が覚めて隣に知らない異性が裸で寝ている…なんて、そんなハプニングを起こしたことは無い。 一夜限りの関係であっても、私はある程度知っている人間としか朝を迎えたりはしない。 「ねぇ、キスして」 起きがけにそうやって甘えてくる彼女がいたら、どれほど愛おしいだろうか。 あいにく私はそんな人間ではないし、何より朝は口の中がとても汚いからキスなどしたくないのだけれど。 ひらりひらりとバイトくんのおねだりを交わして、私は仕事の準備を始めた。 その間もバイトくんは私にべったりとくっつき、私は「付き合いたてのカップルかよ」と心の中で突っ込んだ。 ひとつ言っておくけれど、私はバイトくんのことを恋愛対象として見ていない。 可愛い弟くらいにしか感じていない。 酔っ払った勢いで体を重ねてしまったからなのか、目が覚めてからバイトくんの距離が近い。 「連絡先交換しようよ」 断る理由もないので、交換をした。 その日からしばしば、バイトくんから連絡がくるけれど、内容はいつも「りかさん可愛い」「りかさんに会いたい」「りかさん大好き」「りかさんの声が聞きたい」そんなことだった。 それから1ヶ月もしないうちにバイトくんは引越しを済ませ、おいそれと会える距離ではなくなった。 私はその間に、随分とそっけない返事ばかりをしていたように思う。 勉強が忙しくなったのか、ここ1週間ほどバイトくんからの連絡はない。 「なんだか、よく分からんなぁ……」 私の独り言は、煙草の煙とともに夏の夜空へ消えていった。 end
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