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二話「守護者選定」中編
「人前で、ですか?」私は固まった。
いくらなんでも、それはひどい。家族との別れに泣き腫らした目で睨むと、巫女様が言葉を詰まらせた。
「これまでに恐怖や暴力で抑え込んでの強要などもあり、監視が必要なのです。後に監視役すら取り込まれるという例があり、公開して行うことになりました」宥めるように私の腕を叩き、巫女様が続ける。
「私達も側に控えております。当代の神官長は特に潔癖な方ですし『聖女』様が望まれないことをされないよう、しっかりと注意致しますので」頑張って下さい、と言われても。
この世界に転生して十八年。乙女ゲーム『百花繚乱~貴方の口付けがほしい~』の世界との類似に気付いてはいた。
花の名前を名付けることや『精霊の愛し子』としての『聖女』の存在、発情や妊娠の仕組みなど……?
類似、じゃすまないわね。よく考えれば『そのもの』だ。
余り悩まずに現実として受け止めて暮らしてこれたのは、家族やタリーの存在があったから。
母が亡くなったのが悲しく寂しいのも、この世界を受け入れて生きてきたからこそ、なのだろう。
そして、違う世界なのだから違う『常識』があって当たり前だと思っていた。
自身が聖女となり、前世の記憶が関わってくるなどと、考えてもみなかった。
「では、私は薄衣にシーツを被り目隠しをされ、人前で知らない男性に肌を触られて、気持ちが良いか悪いかを答えなければならないのですね」言うだけで真っ赤になってしまった。
「はい。『聖女』の操を守り、正しい『守護者』を選定することは、加護の恩恵を受けるこの国の最重要課題です。万が一、守護者でない男性を受け入れてしまえば、大災害を引き起こすかもしれないのですから」
この国で穏やかに暮らしてきた私も、これ迄の『聖女』達の忍耐の恩恵に預かってきたということね。
「……分かりました。ただ今は、私を心配している家族や友人に会わせて貰えませんか」
王宮に着いた途端引き離され、別れも言えなかった。まだ近くにいるんじゃないかしら。
「申し訳ありませんが言葉を交わすことはできません。『守護者』選定の公平を期し、不正を防止する為、選定前に打ち合わせる機会は許可されないのです」
なるほど。巫女様は私に身内が選定の儀に出る事を暗示してくれた。家族は除外されるんだから、タリーが私に会いに来てくれるということね。
私が発情した時以来話せてないけど、私にはきっと彼の手が分かる。
巫女様は涙が抑えられない私を抱きしめて、窓際に連れて行ってくれた。
ガラス越しに家族とタリーに手を振る。きっと貴方を見つけるわ、とタリーへの思いを込めて。みんなは何度も振り返りながら帰って行った。
「守護者選定の儀を始める」神官長の声が響く。目隠しをされてシーツの中にいた私はビクッとした。
側にいた巫女様が手を擦ってくれた。
「では離れます。『気持ちいい・悪い』と大きな声で伝えて下さいね」と声をかけられる。
苦難の時が始まった。そっと手の甲を触られたり、指先を握られたり、無遠慮に握った手をすぐに手首や肘へ滑らされたり。不快で堪らなかった。
最悪なのは、すぐに『気持ち悪いです』と叫んだのに、そのまま続けて胸まで触ろうとした奴。
『本当に気持ち悪い』と言うと、チッと舌打ちされた。最低だ。これで十数人は終わったと思う。
そこへ彼が来た。ポンポンと労う様に手の甲を叩いてから手を取り、少し待ってゆっくりと触れる。
優しい指が衣の下に入って来ても、何の不安もなくただ快楽に酔っていられた。
「実は怒られちゃったんだ」女官を迎え入れたタリーが微笑む。
この離宮には守護者か聖女が許可しないと、立ち入れないそうだ。
「早々に伴侶になったら、全ての選定時に僕が君の側にいる事になるから、他の候補者に不公平だって。でも」何気なく私の顎を掬い、軽く口付けられた。
「初めに決まった伴侶は、君の初めてを貰えると聞いてはね。先に誰かが選ばれないかと、生きた心地がしなかったよ」頬を撫でる手が心地いい。
「私がタリーを選ぶって、どうして自信があったの?」いくら幼馴染みでも、小さな時はともかく最近は殆ど触れてないわよね?
「発情した君は僕が触れても全く嫌がらず、却って手を伸ばしてくれたんだ。だから止まらなくなった。選定の儀でも僕だとすぐに分かっただろ?」
初めての口付けを贈られ、恋心に気付かされて、にっこり笑うタリーの胸に熱い顔を埋めた。
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