刑務所で繋がる縁

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泰牙と姉の二人だけの家族生活が始まり一ヶ月が経った頃、零真が減刑により早めに釈放されると知らされた。 今日がその日であり、泰牙と姉は車で刑務所まで来ていた。  姉は初対面になるため、泰牙は少しそわそわしている。 「どう? 懐かしい?」 「俺がここにいたのは一ヵ月前だぞ。 それに、できればもうここへは来たくなかった」 刑務所を見上げながら泰牙は言った。 零真が出所すればいよいよここへ来ることはないだろう。 ちなみに父と母は別の刑務所で、あれから一度も会っていない。  というより、もう泰牙と姉の中では両親はいないものとして扱っている。 いくら犯罪者であるといっても、長年一緒の時間を過ごした二人を見れば心が揺らいでしまうかもしれないからだ。 助手席から降りた泰牙は姉に言う。 「姉さんはこの近くで車を止めて待ってて」 「分かった」 車が動き出したことを確認し、泰牙は一人刑務所へと歩く。 流石に簡単には入れないため、入口のところでしばらく待っていた。 10分程待つと零真が刑務所から出てきたのだが、何故か泣いている。 ―――相変わらず、泣き虫な奴。 彼の泣き顔を見ると懐かしさを感じ安心感を覚えた。  「零真!」 「ッ、え・・・? た、泰牙・・・!?」 驚かそうと思っていたため、零真には事前に何も伝えていなかった。 零真は狙い通り物凄く驚いた顔をしていたが、泰牙だと分かると笑顔になった。  だがそれも一瞬のことで、すぐにまた泣き出してしまう。 その様子を見て泰牙から駆け寄った。 「泰牙ぁ・・・!」 「ちょ、何でそんなに悲しんでんの? 俺と会うのが嫌だった?」 「嫌だけど嬉しい! 両方!」 「は?」 「だって泰牙、ここにいるっていうことはまた何か悪さをしたっていうことでしょ!?」 零真の言葉を聞き、泰牙は酷く間の抜けた顔をしてしまう。 会えたのが嬉しいと思っていたら、自分がまた戻ってきたと勘違いしていたのだから。 「あー、あぁ、そんなわけないじゃないか。 俺はただ、零真を迎えにきただけだよ」 「僕を? どうして? だって僕にはもう、誰も・・・」 零真は父親がどこかへ行ってしまったと思っている。 本当にその通りなのだが、今は少し訳が違う。 泰牙は正直言いたくなかったが、これからのことを考えると隠すわけにはいかなかった。 「・・・零真のお父さんのことは、知っている。 林部さん、だよね」 「え、それ、僕の苗字・・・」 「俺が刑務所を出たあの日、零真のお父さんと会ったんだ」 「え・・・?」 泰牙はあの日起きた出来事を全て話した。 両親が既に亡くなったということを伝えるのは辛かった。 同時に自分の両親のせいで零真の両親が亡くなってしまったのだということも伝え、謝った。 「本当にごめん。 全ては俺の親が・・・」 「・・・」 零真は複雑な顔をして泰牙を見つめていた。 泰牙も殴られたり罵られたりしても仕方がないと思っていた。 だが顔を上げた時、零真は確かに笑っていたのだ。 あれだけ泣いてばかりだったというのに。 「僕のお父さんは、お母さんのために悪事に身を染めた。 泰牙のお父さんも、お母さんのために悪事に身を染めた。 それは誰の責任でもなくて、自分で考えた上での行動だったんだ」 「零真・・・」 「それに僕だってお母さんのために、多分悪いことをしているんだろうなーって思いながらやっていたから、人のことは言えないよ。 寧ろ、本当は泰牙のお父さんを誰かが止めなければいけなかった。   そして、それを泰牙がやったのは一番自然なことだったんじゃないかな」 「零真・・・ッ!」 「だから、僕もごめんなさい。 これからは一人になったことだし、まっとうに生きていけたらいいなって思う。 って、何をすればいいのか何にも分からないけど・・・」 零真の表情は穏やかだが、泰牙はだからこそ我慢しているのだと察した。 もし自分が逆の立場なら頭が真っ白になっているだろう。 それなのに零真は冷静に今を受け止めている。  先程まで泣いていたのが嘘のようだった。 「零真、俺の家に来ない?」 「え?」 これは両親が捕まったあの日からずっと考えていて、姉とも相談し決めたことだ。 零真に言ったのは今が初めてで、何がなんだか分からないといった表情だった。 「俺は今、姉さんと二人で暮らしているんだ。 それでもよければ、だけど」 「・・・いいの?」 「もちろん。 零真なら大歓迎だよ」 「ありがとう!」 そう言って零真は嬉しそうに笑う。  「・・・そしていつか、本当の家族になろう」 「ッ、うん!」                                                                                                    -END-
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