バラの庭

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一時間目は現国だった。真新しいノートと教科書を開く。連休明けの気だるさが立ち込めてはいるが、さすが進学校らしくみんな授業は真面目に受けている。 「ね、芹沢くん、どっから引っ越してきたの?」 休み時間になると、大久保さんがそう言った。いつの間にか周りには取り囲むように数人の生徒がいて、僕は少し気圧されながら質問に答えた。 「こんな田舎来ても、退屈じゃない?」 数週間前。ゴールデンウィーク前に引っ越してきた九州の田舎町は確かに、自然はあったけれどそれだけだった。ビルもカフェもない。さすがにコンビニはあったけど、家から歩いて10分以上かかる。 それでもこの街に来ることは自分で選んだ。じいちゃんばあちゃんの住んでいた家がある、それだけの理由だったけれど。 「元々じいちゃんばあちゃんが住んでたんだ。だから、小さい時は来てたし、まぁひとりで暮らすにはやや不便かもだけど頑張るよ」 「え?芹沢くんひとり暮らし?」 まだ名前も知らない、ボブの女の子が食い気味に言う。 「うん。こっから15分くらいの、一軒家なんだけど…。ケーキ屋さんの側の」 「あー、わかったぁ!南ヶ丘の芹沢さんとこでしょ?」 さすが田舎だ。僅かな情報と苗字ひとつでどこの誰だと推測出来る。プライバシーなんて言葉は皆無に近いのだろう。都会にはこんな重たい鎖はない。 彼女たちはだいたいがこの重たい鎖が自分に巻きついていることすら、気づいてない。息苦しさだって元からなら、気にする事はないのだ。 「芹沢くんのおじいちゃんと、私のおじいちゃん将棋仲間でね、おじいちゃんちに遊びに行くとよく会ったんだよ。おじいちゃんもおばあちゃんも、老人ホーム入ったんだよね?」 「うん。だから今、俺はひとり暮らし」 「え、じゃあさじゃあさ、お父さんとお母さんは?兄弟とかいないの?」 よく喋るボブがそう言った瞬間、チャイムが鳴った。救いの音だ。 「あー、次の数学、小テストだぁ。やばい」 ボブが慌てて去る。周りにいた子たちも、それに続いて各々の席に戻った。僕は密かに息を吐いた。 田舎町の鎖は重い。重くて苦しい。 くすっと大久保さんが笑ったのがわかった。僕も仕方なく肩を竦めてみせた。
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