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休み時間になると、その都度ボブを筆頭に人が集まってくる。客寄せパンダみたいだな、と少しおかしくなった。
「ねぇ芹沢くん」
と、ほかの女の子が言うと、ボブが割り込んでくる。露骨に顔をしかめられても、我関せずという雰囲気で黙殺する。
このボブは多分、自分に自信があるのだろう。しゃがみこんできゅるっとした上目遣い、グロスを塗った唇をわざと半分開けている。雑誌かなんかのちょっと古いモテテクを駆使してるのが、ありありと分かる。
正直言って、顔の造作は美人ではない。少しぽっちゃり気味だし、肌は思春期らしくニキビがいくつか出来ていて、それを隠すように厚めのメイクが施されている。モテテクを駆使することで、自分に自信を培っているのかも知れないけれど、かえって不自然に見える。
「ねぇ芹沢くん、土日どっかで遊ばない?歓迎会兼ねてさー!カラオケとか行こうよぉ!私、結構うまいんだから」
ボブがアヒル口でそう言うと、周りが「イイネ」と同調する。
「ありがと。だけど、ごめん、俺まだ片付けとか残っててしばらく忙しいんだ」
「えー?なんでぇ、ちょっとくらいいいじゃん?行こうよぉ」
小首を傾げられ、辟易する。いらないんだ、そんなシナ。
「ごめんね」
ここでまたチャイムに救われる。今度は遠慮なく、大久保さんが笑った。
「なによぉ、意地悪そうに笑わないでよね、明里」
ふくれっ面のまま、ボブがそう言い残して消える。後ろ姿からも不満と自信が充ちていて、思わず目を逸らした。
気を取り直して「そうか、大久保さんは明里って名前か」と思いながら、横目でちらりと覗く。目が合った。鼻の頭にわざと皺を寄せてにっと笑うと、何事も無かったかのように真面目な顔で前を見て板書を始める。
僕の耳にはクラスメイト達がカリカリとシャープペンシルを走らせる音も、教科書をめくる音も、先生の声も抜けていった。
ふわっと、自分が浮いているような感覚がめまいのように襲ってくる。
カーテンが膨らんで戻っていく。僕の気持ちも絡めとっていってくれたら、そんなことを思いながら僕は黒板を見つめていた。
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